■前回のあらすじ■
アニメ声のメイドさん達がはびこる【ぴなふぉあ】に単身乗り込んだ『微笑みの貴公子 ホン様』
そこは秘密結社『萌え萌え軍団』の巣窟だった!
生きてこの少林寺木人巷のような修行房から脱出できるのか!?
風の行方は誰も知らない!
ハートウォーミングな結末に全米が泣いた!
これを読んで、夜尿症がピタッと治ったちびっこ多数!(うそ!)
大スペクタクル全米ナンバーワン記録樹立巨篇!
いよいよ感動の最終回・・・・・。
「そうだな・・・・五目チャーハン・・・って・・・書いてください・・・。」
オレは韓流スターのイ・ビョンホンよりも強いまなざしで、メイドさんをみつめてつぶやいた。
「なんでぇ?チャーハン食べたいのぉ~?」
なんか、きかん坊の幼稚園生をあやすみたいにメイドさんは言った。
んん~、なるほど。
メイド喫茶で【癒される】という要素は、こんなとこにあるのかもしれない。
お客様は、子供のように扱われてるから、メイドさんの母性本能に触れて、癒されてるのかもしれない・・・。
「はい!できましたぁ~!ハートいっぱい描いちゃいますね~!
お店の名前も『ぴな』って書いちゃいまぁ~すっ!」
食べ物に落書きするってどんな気持ちだろ?
まあ、オレも豆腐にデコレーションしてチョコレートペンで『エビチリ』って書いたことあるけどね(笑)
「ごゆっくりどうぞぉ!」
アイス・カプチーノに描かれたサイコロが消えないように泡をすすってみた。
「んん~!ウマいっ!」
カタカタカタカタ!
さあ、五目チャーハンって名前のオムライスを食べよう!
カタカタカタカタ!
さて、どこから崩すかな~?
カタカタカタカタ!
・・・えーいっ!さっきからカタカタうるさいなっ!食器を叩くような不快な音・・・。
カタカタカタカタ!
なんだよ、さっきから生たまごを溶いてるみたいな音はよっ!
うるさくて食事もできないってーのっ!
となりの席を見てみた。
あの男は、メイドさんと『踊る大捜査線』について語りながら、アニメ雑誌に視線を落し、新型のロボットやメカが出てしまったことに頭を抱え苦悩している。
カタカタカタカタ!
誰だ?この騒音出してるのは?ケッコー近くから聞こえる。
・・・あっ!
オレだ!
スプーンを持った手が震えて、皿のフチに小刻みにカタカタあたってビートを刻んでる(!)
震えてる!オレ様の手が武者震いしてるーっ!
オムライスの玉子の上にスプーンを持ってくる。
一挙に降り下ろしてチキンライスごと・・・。
カタカタカタカタ!
オムライスはスプーンに乗らず、手の振動で玉子とライスがバラバラになってしまった。
カタカタカタカタ!
再度トライしてみたが、スプーンにウマく乗らずに、またボロボロ崩れるオムライス(泣)
カタカタカタカタ!
あっ!・・・・まただ。
こんな事やってたら、オムライスはグチャグチャになって『まぜ御飯』か『散らし寿司』みたいになっちまうぞ!
散っらし~ 寿司な~ら
この寿司~太郎ぉ~
いよっ!サブちゃんっ!
いかんともしがたい!・・・このままでは、いかん!
慣れない環境に動揺しすぎだ。落ち着かなくては・・・。
自分にとって場違いな『メイド喫茶』にいることを意識しすぎるからイケないんだ!
・・・そうだ!マインド・コントロールだ!
今から自分のキャラ設定をかえよう!
幼い頃、目の前で両親を惨殺され、敵討ちをするために少林寺を下山し、
胸に刺青のある男を探して街を彷徨って、メイド喫茶に来てしまったさすらいの男。
・・・なんか、ジャッキーの『少林寺木人拳』の主人公みたいになっちゃったぞ!(笑)
これで誕生日の浮かれポンチみたいな野郎から、
悲壮感ただよいながら、五目チャーハンって書いてあるオムライスを食べてる男に大変身だ!
(こっちの設定のほうが場違いで不気味だな)
緊張のせいか、オムライスがうまく飲み込めない!!
フランスパンに大量のきな粉をかけて口に入れてるみたいだ(笑)
メニューに『大盛り』ってあったけど『大盛り』を頼まなくてよかった・・・。
食べ終わった・・・・・なんとか。
次は、『ストロベリー』のなんだかが出てくるんだよな?
また、しばし沈黙・・・・。
なにもする事ないので、店内の人物を定点観測してみる。
みんな、額(ひたい)のあたりから、α波が出てるのが見える。
癒されてるんだな~。
何回ここへ通ったら、あんなふうにリラックスできるようになるんだろ?
「着てるシャツとか、お召し物がおしゃれさんですね」
テーブルを巡回してきたメイドさんが話し掛けてきた。
「あっざーすっ!」
真っ赤なアンスリウムの花がプリントされたこのアロハは、1939年ごろに発売された物の復刻版で・・・。
なんて、語れないほど、いっぱいいっぱいのオレ(泣)
イヤじゃないんだよ・・・楽しいんだよ、基本的には!
でも、加減がわからないから、緊張してる。
どこからか『Happy Birthday to you』が流れてきた。
大きくて太いロウソクに火をつけて、メイドさんが現われた。
「さあ、みなさ~ん!本日、7月23日はホンダイスさんのお誕生日でぇす!
みなさんでいっしょにお祝いしましょ~っ!おめでとうございま~すっ!」
ポカーンとする店内の客たち。
恥かしい!ありがたいけど、勝手のわからない場所で、さらし者的で恥かしいよ~!
メイドさんは、火のついたロウソクをオレの前に持ってきた。
「最初は、熱いかもしれませんけど、ちょっと我慢すれば快感にかわりますからね!」
おもむろにロウソクをオレの背中に垂らしだした!
「あ、あ、熱いっ!熱いよぉ!私は貪欲(どんよく)でうす汚いブタ野郎でございます、メイド様ぁ~!ひ~っ!」
・・・・・えっ!?
あーっ、緊張のあまり思考回路が暴走した妄想をしちゃってた(笑)メイド喫茶で、ロウソク垂らしませんからっ!
テーブルに運ばれたロウソクの炎を吹き消すと店内のみなさんから拍手が起こった。
「おめでとうございますーっ!」
あああああ!クマちゃんのパフェだーっ!ボクのクマちゃ~ん!(自我崩壊ぎみ!)
誕生日のサービスとしてストロベリー味のパフェが出てきたのだ。
「さあ、ホンダイス様ぁ。
メイドさん2人選んでいただいて、トリプルショットで、チェキ撮りますよぉ!」
さっきから退屈させまいと話し相手になってくれているメイドのわかなちゃんと
おさげ髪で『困ったな顔』がカワイイゆずきちゃんを指名した。
みんなが見てる中、壁際に立たされ、両手にメイドさんたちを従えてチェキ撮影することに!
心臓バクバクのオレにとって、公開処刑みたいな儀式だ!
「じゃあ、両手をクロスしていただいて、ハートマークをダブルで作りましょうねぇ!
はい、いいですかぁ、チーズ!」
パシャッ!
ギャーッ!ありえねぇ~!
信じられないくらいニヤけてゆるゆるのゆるキャラみたいな顔で写っちゃったよーっ!
ヤバい!放送禁止だ、オレの顔ーっ!
『微笑みの貴公子』じゃなくて『ニヤけた気味悪い人』に写ってるよーっ!
誇り高きホンダイス一族の長男の面子にかけて、顔にモザイクかけさせていただきますからっ!
そのあと、会計のときにメイドさんのトレーディングカード2枚と缶バッチをプレゼントされた。
「お客様のご出発でーす!ありがとうございました!
またお越しくださいませ!」
扉を開けて外に出ると、少し陽が傾きかけたオレンジ色の街。
鼻孔をくすぐる湿っぽい夏の空気・・・。
ガラスのビルに映る黄昏(たそがれ)・・・。
慌ただしく行き交う都会の街並み・・・。
空を仰いで、立ち止まってみた。
「リー先生!オレ、やったよ!またひとつ勇気を手に入れたよ!
・・・さて、これからオレはどっちの方に向かって進んだらいいかな?」
答えは返ってこない。
「オレはオレの信じた道を行くよ!
例え、その道が行き止まりだったとしても・・・」
また秒刻みでせわしい雑踏の中に紛れて歩き出した。
~The End~劇終~