家族
約1ヶ月ぶりに、母から電話があった。ここ最近は、ほとんど電話で話をしていない。前は毎週必ず電話するようにしていたが、こっちでの生活に特に変化があるわけでもなく、仕事のグチは世代の違う母には通じず、結婚のことをチクチク言われて険悪なムードになり、嫌な気持ちで電話を切ることが多かったので、用事がなければなるべくしないようにしていたのだ。特に最近は仕事のストレスが溜まり、母親にそのことを追求されることを想像するとウンザリしてしまい、電話線まで抜いていた。今、どうにか家族とうまくやっていけているのは、離れて暮らしているからだと思う。同居していたら毎日必ずケンカになるだろう。家族ってのは、そんなもんだと思う。血が繋がっているだけに、他人なら許せることが許せなくなってしまうのだ。この程よい距離感を、できるだけ長く続けたい。近くにいると、ヘンなしがらみみたいなものができてしまう。そうなったら面倒くさいし、不自由だ。何しろ私の人生のモットーは、フリーダムなのだ。自分の好きなように1日のスケジュールが組めなかったり、感動的なドラマを見ている最中に何度も呼ばれたり、帰宅時間や入浴時間に気を使ったりするなんて考えられない。つまり私はワガママなのだろうが、どう言われようと、家族に気を使う暮らしを送るなんてまっぴらごめんだ。「最近、どう?」あいさつがてら、何気なくそう聞くと、母は含み笑いをしながら、「もう時効だから言うけど、実は事故に遭っちゃって・・・」 事故!? 「バイクに乗ってたら、軽自動車とぶつかっちゃってねぇ」どうやら母の不注意で、車と衝突し、母のバイクは大破、相手の車もへこませたらしい。相手に怪我はなく、怪我をしたのは母のほうだった。私はキチガイのように質問攻めをし、年寄りなんだからもうバイクに乗るな、バスで通勤してくれ、怪我はどうなのか、頼むからもう一度病院に行ってくれ、しまいにはもう実家に帰るとわめいた。大丈夫大丈夫、そんなにしつこく言わなくても病院行くって。心配かけたらいけないから言わなかったのよ、と母は穏やかに言った。1ヶ月も電話しなかったことを、心底後悔した。ちょっと目を離したすきに、これだ。私がいたからって事故が防げるわけでもないけど、いない間に何か起こってしまうのだけは耐えられない。私の人生のモットーすら粉々にしてしまうんだからなぁ。ホントーに家族ってやつは、面倒くさいもんだ。