その一票に、命がけ
10年来の友人Cは、某政党の熱狂的な支持者である。Cはみんなで久しぶりに集まるたびに、宴もたけなわの頃、鞄からそっと署名の紙を取り出し、盛り上がった空気をしらけさせる悪い癖がある。選挙のときは必ず電話がかかってきて、時には候補者を連れてあいさつに行ってもいいか聞かれることもある。そんなわけで、Cはとてもいい子なのだけど、若干迷惑ちゃんなのだった。今年も、そのときがやってきた。1週間前、ジムに行っている間にCから着信があり、あ~どうしたんだろう久しぶりだな、なんてちょっぴりうれしくなって電話すると、「来週の選挙、またお願いしてもいい?あのね、Mizurinの選挙区に立候補してるのは、○○さんって人で、こういうことしてきて、ああいうこともする予定で、とっても立派な人なの。投票の案内、もう来た?投票所への行き方、分かる?もし分からなかったら、調べてあとで電話するよ」「大丈夫。完璧分かる。もちろん投票しとくよ。じゃあね」「あ、それでね、投票した後、確認のため電話してくれる?メールでもいいし、ワン切りでもいいからさ」多少冷ややかなキモチになったことは否めない。選挙の前日の夜中、Cからのメール。「こんばんは。明日どうかよろしくお願いします!」その直後、別の友人Sからのメール。「C・・・一斉送信にしてたみたいで、メールに知らないメルアドがいっぱい載ってるよ・・・。気づいてないんやろか。何か、高校のときの同級生全員にメールと電話してるみたい・・・」電話をされた同級生たちの気持ちになってみる。何年も連絡を取っていないCから突然の電話。おおっ、懐かしいな。久しぶりじゃん。どうしたんだろう。でも何だかうれしいな。というキモチになるはずだ。そしてそれが選挙のお願いだと分かった瞬間、彼らの気持ちは一気に氷点下に下がるのだ。必死なキモチは痛いほど分かるのです。しかし・・・。 選挙当日の朝10時、Sからメール。「ねえ、何時ごろCにワン切りするの?もうしといたほうがいいかなぁ」選挙に一度も行ったことがないSも、ワン切りしておかないと後でどんなことになるか心配でやきもきしているのだ。そのあとSは一応ワン切りし、速攻Cから感謝感激の電話がかかってきたという。何か痛い。痛いので、ワン切りは後回しにし、ジムへ行く。ジムに行っている間に、着信数回&メッセージが。「今日、ちゃんと行ってもらえたのかな・・・。連絡なかったから、ちょっと心配しています」 行ってねーよ。 行ってもその政党に投票しねえよ。しかし臆病な私は、「もちろん行ったよ♪連絡遅くなってゴメンネ^^」と返事を打ちました。