「必殺!3 裏か表か」 【監督 工藤栄一。1986年】
これは、初めてロードショーで見た「必殺!」シリーズの映画で、たしか招待券をもらったか何かでたまたま見たのだが、監督が工藤栄一だったので驚いた記憶がある。工藤栄一と言えば、なんといっても「十三人の刺客」だ。これを見たときには、こんな映画があったのかと驚いたものだ。 この映画も、工藤栄一らしい作品になっている。 コミカルな部分や様式美はできるだけ廃し、悲しみや怒りがにじみ出ている。 中村主水の隣に住む同僚の清原(川谷拓三)とその妻のおこう(松坂慶子)の夫婦。夫は実は商家をゆすっていたことで殺され、妻は行方を消す。 珍しいのは、成田三樹夫が悪党の両替商人の役で出ていること。商人姿は新鮮だ。 中村主水と加代(鮎川いずみ)以外はテレビ版とはつながらない設定になっている。 途中で、おこうの行方を知った主水が、清原が実は殺されたことをおこうに教えに行くところがいい。 真実を話す前に、おこうの態度から、実はおこうはそのことを知っていたと察知する。そして両替商組合に狙われるようになり、奉行所からも、命を落としかねない仕事を押しつけられ、必死に切り抜ける。 クライマックスは、工藤栄一らしく、圧倒的に数で勝る敵に少人数で立ち向かっていく。 仕事人仲間は、得意の武器を失い、次々に倒れていく。 豪雨の中の決戦は迫力満点。しかし、救いはない。 その実力を、途中で奉行所の連中に見せてしまった以上、今まで通りの中村主水として生きていけるのかどうかはわからない。 ただ、妻と姑は、何も事情を知らないまま主水を支えようとするところだけが救いではあるのだが、それも空しい。 傑作である。