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カテゴリ:その他のジャンルの海外小説
みなさん、こんばんは。初めて読んだ作家ですが、面白かったので紹介します。
スウェーデンの騎士 Der schwedische Reiter レオ・ペルッツ 本作は、スウェーデンの騎士クリスティアン・フォン・トルネフェルトについての物語だ。冒頭の『序言』で、彼の娘が、幼い頃戦に出たはずの父が自分に会いに来てくれた思い出や、遠い地で父が3週間前に死んだと知らされた時に、ちょうど目の前を通る棺にお祈りを唱えたことを語る。この場面は物語の中で再度登場する。ところがその時には神視点を与えられた読者は娘が知らない‘事実’を知っているため、ある感慨を持ってこの場面を眺める。 物語はクリスティアン・フォン・トルネフェルトと泥坊(名前は明かされない、棒でなくこの文字を使う)が巡り逢う過去に遡る。クリスティアンは心酔する王の悪口を言う兵士を殴ったために、泥坊は絞首刑を免れるために、お互い逃亡中の身だった。折しもスウェーデンはピョートル一世率いるロシアと戦争中で、すぐにも王のもとにかけつけようと焦るクリスティアンは、泥坊に自分の代父の元へ行くよう頼む。ところが泥坊は代父が亡くなり、クリスティアンとは幼馴染みだった美しい娘が悪い後見人に全てを奪われようとしているのを知ると、彼女を救おうとする。僧正領で奴隷として働こうとしていた泥坊と、王のもとへ赴こうとしていたクリスティアンの人生は、大きく変わろうとしていた。 「変わろうとしていた」と書いたが「変えようとした」と書く方が正しい。但し、そう思っていたのは一人だけだ。だから「変えようとしていなかった」側の人生は強制的に「変えられて」しまう。それではこれは悪人の物語なのか、と問われるとそうとも言い切れない。プライドばかり高くて世渡りの才覚のないお坊っちゃまが、最初の筋書き通りに代父の元に出向いたとしても、娘が幸せになったとは限らないからだ。むしろ変わったことで、娘ともう一人の女性は幸せになったとも言える。 だが、そう考えるのはやはり我々が人間だからであり、結果のみでなく行為をも裁く神の考えとは相容れない。放蕩息子の帰還を喜んだのは、息子が悔い改めたからである。泥坊は特定の人物に対しては愛情深いが、最も謝らなければならない強制的に運命を変えた相手に対しては謝罪もしていない。人間の側から見れば情状酌量やら動機やら、裁判員制度が普及する現代であれば、泥坊の行為を弁護する要素は山ほどある。しかしやはり神の裁きは公平であり、物語はその基本に忠実に従って進む。さあそうなると困ってしまうのは読者だ。神と同じ視点を与えられたのだから、「こうなるのも当然」或いは「むべなるかな」と思う一方で、「そうはいってもこれではあまりに可哀想」と割り切れない部分が残る。おや、いつの間にやら試されているのは、スウェーデンの騎士ではなく、読者のほうであったか。さあて、もう一度現れるあの場面を見た時、あなたの脳裏に去来するのは同情か、同意か。 【楽天ブックスならいつでも送料無料】スウェーデンの騎士 [ レオ・ペルッツ ]楽天ブックス お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
September 3, 2015 12:08:46 AM
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