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みなさん、こんばんは。この人ほど毀誉褒貶が激しいのはあまりいないのでは。
森川久美さんが織田信長を描くととても美しい鬼になります。でもやっぱり優しいかな。

KING OF ZIPANGU 信長（ASUKADX）
森川久美

森川さんの描く男達は、美しい。
戦国武将、織田信長の生涯を描いた本作も、またしかり。
主人公・久慈三郎、美貌が噂される信長の小姓・森蘭丸は勿論の事、「人生五十年」を謡う、壮年のはずの信長ですら、時に美しく描かれている。

　逆に女性は、描かれ方も生涯も散々だ。
妻・濃姫、光秀の娘、細川ガラシャら、実在の名だたる美姫が登場してもおかしくないのに、お市の他は登場しない。そのお市すら、顔は描かれていない。唯一、ちゃんと顔が描かれる女性は、架空の存在である、猿楽一座の女性・白雪。出雲の阿国をイメージして描かれた彼女には、愛する男性・久慈三郎には去られ、権力に翻弄される哀しい運命が待っている。

　権力の頂点にいる信長の周辺にいる男性陣も、また波乱含みの生涯を送る。ルイス・フロイス、足利将軍、石山本願寺、秀吉、家康、光秀。美しき暴君・信長は、相手に対して「好かれよう」「気に入られよう」という媚びを一切見せない。今まで、地位や城を望まず、何者にも縛られない生き方を望んでいた三郎を気に入ったのも、自分と同じ匂いを嗅ぎ取ったからだろう。「金ではない 欲しいのは…」本音を口にせず、常にポーカーフェイスだった三郎が、遂に本心を見せた時、信長も真の思いをかいま見せる。だがその時は、二人の別れの時だった…。

　裏切る男、裏切られる男、傍観する男。三人の心の動きをモノローグと沈黙で静かに描いてゆくくだりが、哀切を誘う。愛と反発、相反する思いにとらわれたもう一組の男達を描いた『花の都に捧げる』同時収録。


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