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映画・海外ドラマ・本 ひとこと言いた~い

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August 30, 2021
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みなさん、こんばんは。夏の高校野球智辯和歌山が優勝しましたね。今日から二日間連城三紀彦さんの小説を紹介します。

さざなみの家
連城三紀彦
角川春樹事務所

「幸福な家庭はみな一様に似通っているが、不幸な家庭はどれもその不幸な顔は違っている。」と、かのトルストイは述べています。いえいえ、幸福な家庭にも、様々な事件は起こっているのですよ、トルストイ翁。そんな家庭の一つを、見て頂きましょう。

「家を棄てる決心はつきましたか。ついたのなら今度の日曜日、朝の十時、東京駅で待っています」ある日、吉川家に届いた一通の手紙。宛て名に書かれているのは名字だけで、差出人の名前もない。いったい家の誰に届いたもの?

 ジョセフ・L・マンキウィッツの映画「三人の妻への手紙」を思わせるオープニング。ただし映画の文面は、「あなたの夫と駆け落ちします」つまり、映画の場合、手紙の宛先人は駆け落ちの対象から外されています。でも、本作の場合はいずれも容疑者。娘の夏美、息子の勝広、夫の達哉、姑のタエ、他の皆を怪しんでいた滝江自身も、心当たりがあるのですから。みいんな、叩けば埃。おやおや、表向き平和に見えた吉川家に波浪注意報発令か?「もしかしたら、あの言動は?」長年のカンが告げる危険信号が瞬く。聞けなかった事がたまってゆくもやもや。感情のすれ違いが生む、ぎすぎすした雰囲気。不平不満を巻き込んだ低気圧は、次第に成長し、このまま行けば、一家をひっくり返す嵐に?と思いきや、すんでの所で、声が聞こえる。「…弱い低気圧となりました。」ほっとため息。とりあえずの危機は去る。

 家族だってもともとは他人同志の寄り集まり。
考え方も、または育ち方も全く違う他人が一緒に住むのだから、感情のすれ違い、価値観の違いが生じて当たり前。そうなれば、波風が立つ。このまま行けば傷つく。でも、逆に楽にもなれる。ここで戻れば傷つかずにすむ。でも苦しみを抱え込む。どっちに向いても痛み半分、喜び半分。

 そんな岐路は、そこここに現れる。大きな波一つで越えられそうだ。でも、そんな波をさざ波に戻すのは、やはり家族しかいないようだ。男達も、女達も、時には皮肉を言い合い、嫉妬し、嘘をつく。言いたい事とは逆の事を言い、勘違いの溝を埋め、だんまりの技まで駆使する。皆、なかなか役者である。そうまでして、皆で嵐を鎮めようとするのは、やっぱり愛情か?そう聞けば、皆が笑って否定しそうだが。おや、さざ波に、足をぴしゃんと叩かれたような。

 本書は、24回の危機にめぐりあった、ありふれた家庭の歴史の一こまを描いた物語。


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最終更新日  August 30, 2021 12:00:20 AM
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