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カテゴリ:海外の作家が書いた歴史小説
みなさん、こんばんは。
HIS子会社による給付金不正受給が最大6億8300万円余だそうです。 今日もヒラリー・マンテルの小説を紹介します。 鏡と光 下 The Mirror and The Light ヒラリー・マンテル 早川書房 下巻は1537年から1540年までを描く。ジェーン・シーモアが妊娠し、待望の嫡男を産むが亡くなってしまう。クロムウェルの分岐点があるとしたら、まずここだ。もし、ジェーン・シーモアがずっと生きていたならば、ヘンリーは慌てて次の妃を迎えることはなかった。史実では、クロムウェルが積極的に勧め次の妃となったアン・オブ・クレーヴスが、ハンス・ホルバインの肖像画とあまりにも違っていたことから王の不興を買い、クロムウェルはあっという間に転落するのだ。 読み進めていたが、下巻半分以上読んでもまだ寵愛と信頼は変わらない。一体どうやって急転直下の状態に持っていくのだろう?と思っていたが、何のことはない。きっかけなど何でも良かった。 ヘンリー8世の父リッチモンド伯ヘンリーから始まったチューダー朝は、“悪逆王”リチャード3世を倒して始まった。しかし、そもそも本当にリチャード3世が“悪逆”かはわからない。所詮は勝者側の言い分であり、“悪逆”をことさら強調せねばならぬほど、王権が脆弱だった証拠である。証明するには、できるだけ長く王統を繋げ、真実を覆い隠すことだ。そして繋げられるかどうかは、王一人にかかっていた。その前に彼はアン・ブーリンとの結婚を巡って教皇や旧教を信じる外国とも険悪になっており、味方は少ない。若さが失われれば、王の自信も揺らぐ。 それに、もともと王は気紛れだった。今までは、気紛れな王をクロムウェルがうまくあやしてきた。しかし元の性格は所詮変わらない。 「なあ、クラム、余はときどきそのほうを非難することもある。貶すこともある。乱暴な口をきくこともある。それはみせかけなのだ。だから、連中はわれわれが仲違いをしていると考える。しかしよい点もある。国内外でそのほうがどんなことを耳にしようと、余の信頼はぐらつかない」 と何度甘い言葉を囁いていても、一旦気が変われば、その人の全てが嫌いになり信じられなくなる。機を見るに敏な政敵がたきつければ、これ幸いと乗っかるだけだ。そして不幸な事に、甘い言葉に馴らされていたクロムウェルは、ちょうど不穏な兆候が次々と出てきても、見過ごしてしまうターンに入っていた。感覚が鈍くなっていくのか、それとも王の移り気も、自分だけは例外だと思っていたのか。 何度も刑場で後ろを振り返り抗弁するアン・ブーリンを見ていたクロムウェルが、身分を剥奪され、尋問を受け、財産を奪われ、たった一人で死んでゆく。しかし彼の刑死を見ていた貴族達の何人かもまた、数年後に同じ運命を辿る。我々はいつも、ダモクレスの剣の下にいる他人を見る。しかしその他人とは、鏡に映った自分かもしれないのだ。 鏡と光 下 [ ヒラリー・マンテル ]楽天ブックス お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
January 9, 2022 12:00:19 AM
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