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みなさん、こんばんは。ブルース・ウィリスが失語症で俳優を引退するそうです。 今日もシュテファン・ツヴァイク作品を紹介します。
エラスムスの勝利と悲劇 (ツヴァイク伝記文学コレクション6) Triumph und Tragik des Erasmus Von Rotterdam シュテファン・ツヴァイク みすず書房 タイトルに“勝利と悲劇”とあるからには、栄枯盛衰を味わったくちである。よく知られているのは『痴愚神礼賛』というタイトルくらいか。 高名な司祭と医師の娘の間に生まれたエラスムスは、庶子だったことに加えて相次いで両親を亡くし、後見人によって寄宿学校に入り、親族の意思によって修道院に入る。聖職者としての人生がいわば最初から決められていた。 「カトリック教会を批判した人文主義者」というのが後世の評価だが、ツヴァイクの評価は異なる。 「エラスムスにとっては、イエスとソクラテス、キリスト教の教義と西洋古代の叡智、敬虔と人倫のあいだに、越えがたい道徳的な対立は何ひとつ成立しなかった。彼はみずから聖別された司祭でありながら、異教徒たちを寛容の気持からその精神の天国へ受けいれ、兄弟のように教父たちのそばに立たせた。」 要は喧嘩はしないで仲良くいきましょうよ、というスタンスだったが、そんな彼の前に現れるのがこちらも有名人マルティン・ルター。 「彼は最初のドイツの宗教改革者(またそもそも唯一の、と言ってよい-他の連中は、改革者よりもむしろ革命家だったからである。)として、理性の法則にしたがってカトリック教会を革新しようと努めたのであった。だがこの視野の広い精神的人間、進化論者である彼に対して、運命は行動的人間を、ルターを、革命家を、陰湿なドイツ的民衆の暴力に魔神のように駆りたてられた人を送る。エラスムスの華奢な、鵞ペンで守られただけの手が、おずおずと優しく結合しようと努力したものを、ドクトル・マティーンの百姓育ちの鉄拳が、一撃のもとに粉砕する」 党派や争い事が大嫌いなエラスムスは、肝心な時にノーと言えず、大事な アウグスブルグの帝国議会を欠席。かくてカソリックとプロテスタントの亀裂は修復不可能なものに。 かつては当代の文人たちがこぞってエラスムス詣でをしたのに、今は遠くから誹謗中傷の弾ががんがん飛んでくる。もともと体が弱かった彼はますます隠居生活にのめりこむ。彼の死と前後して出版されるのが“たとえ敵を作ることになろうとも新たな時代を切り開くべき”とこちらも対立を恐れないマキャベリの『君主論』。 なまくらな論じゃ、この中世を生きていけない、というわけだがツヴァイクはエラスムスに幾分同情的である。 歴史は、敗北者に対して公平ではない。歴史は節度の人、仲介し宥和させる人、人間性の人をあまり好まない。情熱の人、節度のない人、精神と行動の狂暴な冒険者たちがその寵児なのである。こうして歴史は人道的なものに静かに仕える者たちを、ほとんど軽蔑の眼で見すごしてきた。 先の大戦を終えたばかりなのに、また新たな大戦に臨もうとする大国の空気を感じていたからかもしれない。 他に『世界大戦中の発言Worte wahrend des Weltkrieges』として五篇の論文「不眠の世界」「うれい知らぬ人びとのもとで」「ベルタ・フォン・ズットナー」「ヨーロッパの心」「砲火」、講演『ヨーロッパ思想の歴史的発展Der europaische Gedanke』を収める。 『中古』エラスムスの勝利と悲劇 (ツヴァイク伝記文学コレクション6)KSC お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
June 13, 2022 12:00:24 AM
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