映画・海外ドラマ・本　ひとこと言いた～い

みなさんこんばんは。本年度アカデミー賞が決まりましたね。ミシェル・ヨーがアジア女性初の主演女優賞に輝きました。 今日もドストエフスキー作品を紹介します。

白痴 4​
フョードル・ミハイロヴィチ ドストエフスキー
亀山 郁夫訳
光文社古典新訳文庫

　毎巻「えっこれ本筋と違うよね？」と言いたくなるサイドストーリーを出してくるドスト。今回はフツーの人論。
「何にもまして腹立たしいのは、たとえば金持ちで家柄もよく外見もなかなか立派で、それなりに教養もあり、頭も悪くはなく性格も善良でありながら、何の才能も特徴も、奇癖さえなく、自分の考えというものをいっさいもたず、完全に「十人並み」であることである。財産はあってもロスチャイルドほどではなく、家柄は立派であってもこれまでいちどとして顕彰されたためしはなく、外見はなかなかのものながらいたって表情にとぼしく、受けた教育もかなりのものなのにその使い道がわからず、頭はよくても自分の考えがなく、ハートはあっても寛大さに欠ける、などなど、すべてがこの調子である。」

ああそう、ドストからするとそんなにフツーというのは腹立たしいのか。いいねぇ天才は。

　というわけで本編中究極のフツー人であるエパンチン家の秘書ガヴリーラ・アルダリオノヴィチ・イヴォルギン(ガーニャ)が「アグラーヤに振られたのはアル中で虚言癖のある親父のせいだ！」と妹ワーリャに管を巻く場面で本巻開幕。いや、あなたナスターシヤにも相手にされてないよね。

　エパンチン家のアグラーヤが公爵に「あたしここにいるのが嫌なの！教師になりたいから一緒に駆け落ちして！」と頼みこんで(いやそれ公爵の性格上絶対無理だ)から1週間後。
アグラーヤに公爵と結婚して欲しいと頼んで、二人が結婚した後に自分はロゴ―ジンと結婚すると言っていたナスターシヤはどこまでドSなのか。アグラーヤとムイシュキンがせっかく相愛になったのに、アグラーヤが気持ちの区切りをつけるために取ったある行動が抑えていた二人の恋心に火をつける所がやはり月9風。

　一見ドS(自分が好きじゃない人に対してはね)に見えてとことんドMだったナスターシヤ(いやだってそうでしょう、好きな人の結婚を見届けてから自分は好きでもない男と結婚するとか何その演歌人生)の写し鏡として、何事も受け入れ誰とも喧嘩しないムイシキン公爵が一見ドMにして、彼を慕う二人の女性にやっていることはドS。そしてこじらせた両者の間でイライラするSっ気もMっ気も持っているロゴ―ジン。とてもじゃないがフツーの人はこの恋愛模様から抜けられない。いち抜けた！と思い切った行動を取ったアグラーヤが一番賢かったのかもしれない。

2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。


白痴 4 （光文社古典新訳文庫） [ ドストエフスキー ]​​楽天ブックス