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みなさんこんばんは。JAXAを退職した若田光一さんが民間の宇宙飛行士になりましたね。
今日は江戸時代について書かれたエッセイを紹介します。 江戸ふしぎ草子 海野 弘 河出書房新社 わけのわからない所がウリの豆腐小僧までもが、アイデンティティを求めてさまよってしまった。フィクションでここまで書かれてしまったんじゃ、「不思議」な江戸のノンフィクションなんて、もう存在しないのじゃないか。そう思っていた今日この頃であるが、それは大きな間違いだった。鈴木春信の「清水の舞台より飛ぶ女」が表紙の本書には、まだまだ不思議な話が潜んでいた。そういえば、昔は本当に清水の舞台から飛んで、自分の願いが適うかどうか占った。ううむ、表紙から『事実は小説より奇なり』を持ってきたか。果して彼女の願いは適ったのか。気になりつつも、本篇へと頁を繰った。 三話目に出てくるのは、伊賀忍者の郷・伊賀出身の竹川竹斎だ。彼は、一日何千里も歩いても、少しも疲れない「神足歩行術」を身につけていた。早く歩く事よりも、持久力を保つ歩き方をする事を目的としたこの技を、彼は近江出身の矢野守祐に習い、免許皆伝を受けた。二十七人も弟子がいたのにも驚いたが、次の記述には、目を疑った。なんと、歩く道の種類によって掛け声の指定があるらしい。「サササザザザ、オイトショ」が平地を歩く時で、登りの時は「マダマダマダマダ」。しかし、本当にこんな事を言いながら歩いて効果があるのか? 逆に、間違えて、足がもつれないのか? 第一、一人で道を歩いてこんな独り言言いながら歩いてくる人がいたら、かなり怪しいぞ。まだ序盤なのに、突っ込み所が満載だ。もう少し、怪奇色をつけたら、山風(=山田風太郎氏)の忍法帖に『百足足』とでもネーミングされた忍法を操る忍者として、出てきそうなキャラクターだ。 幕末動乱の時期、「俺はこんな事やってていいのか。」とたまらなくなると、彼は紀伊山脈を歩行術で歩き通した。「そっかそっか、青年期の滾り立つ情熱ってわけだ。ジャパニーズ・シュトルム・ウント・ドラング(疾風怒濤)だ。」と何だかおかしくなってくすくす笑った。しかし、さすがに「いくら何でも江戸時代に生きた人を、こんなに笑いっ放しでいいのだろうか」と、ちと反省の気が出てきた。いかにも真面目そうな彼の写真を見て、ますます済まない気持ちになりかけた頃、話は彼の後半生のくだりになった。射和から鳥羽まで弟子と遠足にでかけ、目的地で弟子は青息吐息なのに、自分だけ開国論を喋っていた。「この人は、タフさは相変わらずだよ。」と、またまた微笑ましく思ったが、後援していた勝海舟との関わりが出てくると、もう私は笑わなくなった。それどころか、「尊王攘夷やら、新選組で揺れていた京都の近くに住んでいたにしては、随分とハイカラだ。よくもまあこんなに柔らかく生きられたもんだ。」と至極感心していた。自分の事より射和の農民や次世代の若者のためを思っていろいろな事業に手を出す。それでも、ちっとも偉ぶった所がない。この人、すごくいい人だ。話が終わる頃には、私は竹斎がとても好きになっていた。 他には、恋人達の切ない逢瀬と別れが『伊勢物語』の「露と答へて」の歌が出てくる「芥川」みたいだなぁと思った「俳諧飛脚」、「あ、あなたは宮本武蔵の生まれ変わりですか!」と言いたくなった「蠅とり名人」、山東京伝が出逢った芸人の話「煙芸師」など、江戸時代の不思議な出来事が、全部で二十話収録されている。フィクションに、実際の行事や実在の人物をうまく取り込んだ物語は、一篇が十頁位なので、「一日に沢山は読めない」という方にもお薦め。更に、どの話も一話完結なので、どこから読んでも大丈夫。江戸のフィクションを堪能した方も、そうでない方も、このふしぎ草子、お一つ試してみてはいかが? 第三回斎藤緑雨賞受賞作。 江戸ふしぎ草子 海野 弘【中古】大安商店 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
May 25, 2024 12:00:25 AM
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