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みなさんこんばんは。東京・上野動物園のジャイアントパンダ「リーリー」と「シンシン」は、ふるさとの中国に帰ってしまいさみしいですね。今日は詩人バイロンの祖父が乗っていた船の難破事件について書かれたノンフィクションを紹介します。
絶海: 英国船ウェイジャー号の地獄 THE WAGER デイヴィッド・グラン/著 倉田真木/訳 早川書房 服はボロボロ、髪の毛バサバサ、およそ大英帝国の海軍兵士とは思えない姿で、二組の集団が英国に帰還を果たす所から始まる。両者は同じ船で難破したが、英国への帰還時期は、ばらばらだ。嵐ではぐれることは、よくある。「よくぞ生き残った!」とお互いの生還を喜び合えば美談になるものを、そうはいかない事情があった。 1740年9月18日、軍艦5隻を中心とした小艦隊がポーツマスを出港した。そこには、かつての商船から大砲28門を備えた六等艦へと生まれ変わった「ウェイジャー号」と250人の乗組員の姿もあった。財宝を積んだスペイン船を追う密命を帯び、意気揚々と出発した艦隊だったが、次々と災難が船を襲う。 そもそも最初からつまずいた。「船に乗りたい人この指とまれ」で多数応募者を厳選した船員ではなかった。今どき冒険野郎がうようよいるわけもない。むしろ、航海に出たら、いつ帰ってこられるかわからない。栄えある国家の任務と言われても、行きたくないのが本音だ。そこで港にいる男たちを無理やり船員として登録した。経験豊富で、かつ意欲がある船員の宝庫ではなかったのだ。 航海は凄絶を極め、謎の伝染病で多くが死に至り、南米大陸南端を航行中、仲間の船とも離れ、ついに嵐に飲み込まれてしまう。無人島へと流れ着いたウェイジャー号の乗組員たちだが、ここでも分裂が。最後まで船に残ると言い張った男たちが、いい着物を着てどんちゃん騒ぎをやっていたのだ。とはいえ死ぬとなると怖くて、大砲を島に向けて打ってきた。この辺りから、艦長の統率が取れなくなる。船の事故でケガをして、介護が必要になった艦長は、ガタイももともとよい方ではなく、力で物を言わせられる状態ではない。生への渇望が強い彼等が最も求めたものは、当然ながら食料だった。食料や武器を奪い合い、殺人や人肉食に及ぶ者が現れ、極限状態を生き延びた者たちはやがて対立、二組に分かれる。骨と皮になり果てながら母国へ帰還した33人を待ち受けていたのは、非情なる裁判だった。 ウェイジャー号は貯蔵船だったため、他の難破船に比べれば恵まれていた方だ。しかし、いつ救助の手が差し伸べられるかもわからないチリの孤島で、食料はいつか尽きる。島だから、植物はともかくとして、動物の増え方にも限りがある。焦燥感に駆られた人々の間で、反乱が起きた。 反乱が成功した要因は、艦長に対峙しうるリーダーたり得る人物がいたことだ。掌砲長バルクリーである。順繰りに昇進しただけのぽっと出艦長チープより、遥かに経験豊かで、言っていることに説得力がある。チリの見知らぬ島で生き残りたいと思ったら、より生存確率の高い方に賭けるのは、きわめて人間的な行為だ。殺し合いにならなかっただけ、ましである。怒りに任せて船員を殺してしまったのは艦長の方なのだから。どんなに理不尽に感じても、反乱であることは認識していたバルクリーは、日記を丹念につけていた。証拠物件を残すあたり、映画『ケイン号の反乱』を彷彿とさせる。 さて、経験豊富な船員に捨てられた艦長側についたのは、若き士官候補生ジョン・バイロン。バイロン男爵の次男坊で、後の詩人バイロン卿の祖父である。地元女性にモテモテだったらしい。ウェイジャー号での時の経験は後に『ジョン・バイロン閣下の物語』(Narrative of the Honourable John Byron)として出版され、好評を博した。なんだか孫の人生を先取りしたかのようだ。 裁判の場面は全体のボリュームから見ると少ない。個人の日記であったものの、記録があった事や、殺し合いが行われたわけではない。艦長の判断により、死ななくてもいい命が多数あったはずだが、その責任は問われなかった。 絶海 英国船ウェイジャー号の地獄 / 原タイトル:THE WAGER[本/雑誌] / デイヴィッド・グラン/著 倉田真木/訳ネオウィング 楽天市場店 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
November 12, 2024 12:00:24 AM
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