源氏物語〔桐壺14〕
源氏物語〔1帖桐壺14〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語1帖桐壺の研鑽」を公開してます。陛下の深い愛情がかえって恨めしいように、こんな話をまだ全部も言わないで未亡人は涙でむせ返ってしまったりしているうちに深夜になった。それは陛下も仰せになり、自分の心でありながらあまりに穏やかでないほどの愛しかたをしたのも前生の約束で長くはいっしょに居られない二人であることを意識せずとも感じていたのだろう。自分らは恨めしい因縁でつながれていたと思った。自分は即位してから、だれのためにも苦痛を与えるようなことはしなかったという自信を持っていたが、あの人によって負ってはならぬ女の恨みを背負い、ついには何よりも大切なものを失って、悲しみに暮れて以前よりも更に愚劣な者になっているのを思うと、自分らの前生の約束はどんなものであったか知りたいとお話しになって湿っぽい様子ばかりを見せているとどちらも話すことにきりがなかった。命婦は泣く泣く、もう非常に遅いようなので、復命(命に従う)は今晩のうちにしたいと思いますと言って、帰る仕度をした。落ち際に近い月夜の空が澄み切った中を涼しい風が吹き、人の悲しみを促すような虫の声が聞こえるので帰りにくい。鈴虫が羽を振り声を限りに鳴くごとく長い秋の夜を泣き通しても、流れつづける涙で、どうにも車に乗り込めません。命婦はこんな歌を口ずさんだ。そうでなくても虫が鳴きしきる草深いこの侘しい鄙(ひな/いなか)の宿に ますますもって涙の露を置いてゆく雲の上からの使者よかえって訪問が恨めしいと申し上げたいと未亡人は女房に言わせた。