カテゴリ:その他雑考
オレオレ詐欺と警察のいたちごっこは、今日に至るまで続いています。
オレオレ詐欺の被害者となるべき方々に対しては、警察の啓発活動や銀行などにおける声掛けなども相当行われています。 声掛けが功を奏して水際で食い止めた、という事例もしばしばみられます。 被害者が感づいて警察に通報し、待ち伏せ作戦で犯人をしょっ引くことに成功した、という事例もあります。 (それで捕まった被告人を弁護したことがあります) しかし、私は被害者への警戒呼びかけ教育のほかにもう一つ、オレオレ詐欺に関して教育をすべきではないかと考えている存在がいます。 それが、「加害者予備軍となる人たち」です。 この加害者予備軍となる人たちは、オレオレ詐欺を巧妙にやって荒稼ぎしてやろうと考えている連中とは限りません。 むしろ、ごく普通の人たち、場合によっては高校生や大学生など、法的な責任やオレオレ詐欺の実態に関して無知な人々が主眼です。 昨今のオレオレ詐欺は組織化され、詐欺電話を掛ける役や金銭を受け取る役などを巧妙に分担していることが多いといわれます。 そして、詐欺グループが金銭の受け取りをする受け子(詐欺罪)、振り込ませた金銭を銀行から下ろしてくる出し子(窃盗罪)などの実行犯に、それだけをやらせるアルバイトを使う例が増えています。 彼らならつかまってもトカゲのしっぽ同然に切れるし、彼らに重要な情報を渡しておかなければ組織の上層部がばれることもない、というわけです。 もちろん、彼らは募集する受け子に対してオレオレ詐欺だ、などと名乗りません。 例えば、書類の受け渡しをする簡単なアルバイトだ、などと言って近寄ってきます。 割のいいアルバイトだな、と思って踏み込んだらほかならぬオレオレ詐欺の受け取り役や金銭の出し子という形でオレオレ詐欺の片棒を担がされていたという事例が後を絶たないのです。 刑法の理屈からすれば、金銭の受け取りなどをする時点でオレオレ詐欺と気づいていなければ、犯罪の故意がなく罪にはなりません。 ただし、オレオレ詐欺について幅広く広報も行われている現在、本当に気付かなかったんだ、という弁解を通すのは決して簡単ではありません。 本当に気付いていなかったけど「これだけの状況があったんだから、気づいていたはずだ」となってしまい有罪になることもあり得るジャンルだろうと言えます。 もちろんこれは冤罪と評すべき事態ですが、そのような事態に巻き込まれないに越したことはないはずです。 有罪ならば、オレオレ詐欺が重大な社会問題となっている昨今、単なる受け子や出し子役をやっていただけで、これまで一度も前科がなくとも、被害の出たオレオレ詐欺の受け子は実刑、少年でも少年院直行だと思っていなければいけません。(待ち伏せにあって捕まり未遂だった、あるいはお金を即返せるなどの更なる好条件が重なってくれば、成年なら執行猶予も視野に入りますが…) また、仮に後からこれはオレオレ詐欺だと気づいたとしても、オレオレ詐欺集団から抜けることは一筋縄ではありません。周囲の怖い人たちに監視されているのではないか、家族とかが仕返しされるのではないかと怖くなり、警察に駆け込むこともできなかった…という例も聞きます。 やめたい、でも怖くてやめられない・・・という状態であったとしても、無罪とはなりません。 仮に刑事処分を免れたとしても、民事責任は問われてしまいます。 刑事処罰なら故意だけつぶせば無罪になりえますが、それさえ至難の業。 ましてや民事責任は過失責任です。過失さえもない、と認められるのは非常に困難でしょう。 金銭を受け取った瞬間に待ち伏せされてすぐに捕まっていれば、とりあえず手元にある受け取ったお金をすぐに返せばよいでしょうが、捕まるのが遅れ、金銭を上役に渡してしまったらもう手遅れ。上役に渡したことは弁解として何の役にも立ちません。 結果として被害金は出し子や受け子が自腹で賠償する責任があります。 上役にも負担しろという権利自体はありますが、上役がそう簡単に捕まったら苦労はしません。 未成年者が受け子をやっていた場合、親権者が監督責任を問われる可能性もあります。 被害額は、オレオレ詐欺の神奈川県の平成27年上半期では1件当たり平均284万円。 これだと、遅延損害金だけでも月に1万2千円程度。 月々5万円分割払いしてても返済まで5年半、月々3万円なら返済まで10年かかります。月々3万円でも、払い続けるのはとても大変なことです。 平均で済むかどうかは運の問題なので、この何倍もの責任がかぶってくることもありえます。例えば被害額が1200万円なら月々5万円払っても遅延損害金だけで、元本は全く減らないということになります。 そもそも被害者としては分割払いなんてふざけるな、即座に一括耳をそろえて払えという権利だってあります。 親が監督責任を問われた場合、何にもしていない親が苦労して建てた家屋敷や老後のための資産を放出する羽目になることだって起こってきます。 服役している間は返済なんてできず、その間は遅延損害金だけが溜まっていく・・・ということも起こります。 また、悪意で与えた不法行為の損害賠償と見なされれば、破産免責でやり直すこともできない(例え破産しても被害金の返済は続けなければいけない)可能性もあり得ます。 オレオレ詐欺にあって一番不幸なのはもちろん被害者です。金銭的な被害にとどまらず、家族に何で引っかかったのかといわれて精神的にも苦しみ、自殺に追い込まれるという例も聞きます。 加害者が自分のこうむった苦痛と被害者の蒙った苦痛を比べて考えるなら、それ自体が非常に失礼なことです。 しかし、それでも加害者に人生が一発で台無しになるような責任がのしかかってくること自体は変わりません。 もちろん、オレオレ詐欺上等!!被害者なんて関係ない、儲けたい、スリルを味わいたい、そのためなら出し子どころか電話役だろうがまとめ役だろうがやってやろうというような連中は刑務所なり少年院なりで性根から入れ替えてもらわなければいけません。 しかし、下っ端アルバイトとして関与した人たちならば、「こんなアルバイトはすべきではない、オレオレ詐欺である」と知っていれば、オレオレ詐欺にかかわることはなかっただろうし、彼らがかかわらなければオレオレ詐欺被害も少なくなり、被害者も生まれなかったはずです。 あるいは、オレオレ詐欺について深く考えることなくただのアルバイトだと軽く考えてしまった人たちに対しても、上記のような人生崩壊級のダメージはあなたにもあるんだよ、ということが分かれば、踏みとどまることができる人たちは相当数いるはずです。 自動車学校で、対人無制限の保険に入らないとこうなるんだよ、というビデオを見たことのある人も相当数いるのではないかと思いますが、あれと同じです。 「こんなアルバイトは危ない、最初から手を出すべきではない。」 オレオレ詐欺被害対策については、被害者予備軍に警戒を呼びかけることはこれでもかと行われていますし、一定の効果を上げていると思います。 しかし、こうした加害者予備軍に対する警戒呼びかけはあまり見ません。 皆無ではなく、こちらの3頁目上半分やこちらの記事のような例もあるのですが、被害者に対する警戒呼びかけに埋もれている感があります。 口座を売っちゃだめだ、というポスターはどこでも見かけますが、おかしなバイトに手を出すな、という呼びかけは私の知ってる範囲ではあまり見かけません。 大学のホームページなどを見ても、オレオレ詐欺の被害にあわないような呼びかけは見かけますが、加担するなという路線の呼びかけはざっと検索した限りでは見当たりませんでした。 例えば、判断能力の乏しい生徒さんたちの通う中学・高校。 大学に入って初めて、生活費や学費・友人とのコミュニケーション手法としてもアルバイトを探しているかもしれない大学生の通う大学。 特に大学進学で初めて実家を離れ、東京に出てくるよう学生は周囲に相談できる人がおらず、引っかかりやすいという話も耳にします。 実態はオレオレ詐欺の怪しいバイトに興味を惹かれている加害者予備軍ともいうべき人々に対し、妙なアルバイトに手を出してはいけない、ということを広報し、加害者を作らないことが被害者を作らず、加害者の人生も台無しにしないという二つの意味で非常に重要ではないか、と考えます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015年09月02日 12時30分34秒
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