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碁法の谷の庵にて

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2015年09月19日
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情状証人については、5年前にこんな記事を書かせていただきました。
アクセス数も結構多く、本記事作成日現在「情状証人」でググると1番上に出てきます。



さて、私もあの頃と比べて実際の情状証人と多々触れ合い、経験もするようになりました。
知り合いの弁護士から聞いた話などもあります。

それを踏まえて、新たに考えたことなどを追加してお話しようかと思います。
情状証人として法廷に立つ予定のある方は、お読みいただければいいかと思います。
前回の記事と被る分についてはあえて触れなおさないので、前回の記事と合わせてお読み下さい。


また、今回以降は「成人の刑事裁判で、親族などが社会復帰後に監督をするという趣旨の証言をする」というタイプの情状証人に絞って話します。
少年事件の場合やカウンセラー、被害者自身が情状証人に立つ(意外とあります)ような場合はまた別の考え方になりますので、この点も注意してください。


なお、先にお断りしておきますが、この記事に書いてあるのはあくまでも私の個人的な考え方です。

情状証人については事件の性質によっても左右されますし、刑事弁護について造詣の深い弁護士でもいろいろな考え方があるところです。

「これが唯一絶対の正解」というのはまず存在しません。



実際に情状証人として立つつもりの方は、まず担当弁護人と連絡を取り、話し合った上で、その指示に従うことを強くお勧めします。
どれだけ被告人のことを真剣に考えているとしても、「この記事ではこう言ってました!!」などと担当弁護人に食い下がったりすることは弁護の邪魔でしかない可能性大です。














では本題の方へ。








情状証人として立つことが、量刑の軽減に役立つことが多いのは、前回の記事でも触れたとおりです。
では、情状証人として立ち、「完璧な情状証人として証言できた」として、量刑はどの程度変わるでしょうか。




実は、「劇的な効果」といえるほどのものはない、と私は考えています。
例えば、情状証人がいないと懲役5年、情状証人がつくと懲役3年になるというような効果はとても望めません。
「裁判官が迷ったときに、軽い方に振れやすくする」程度であろうと私は考えています。

「求刑の7掛けにしようか、8掛けにしようか、うーん、迷う、となったときに7を選ぶ可能性を少し上げる」という程度、というのが私の感覚です。

バシッと証言できても、んー、この人大丈夫かなと思われたとしても、せいぜい誤差のレベル程度の効果しかないということです。
もともと刑事事件の量刑判断は裁判官の感覚的な要素も大きいため、影響を及ぼしている可能性は低い、あるいは影響を及ぼしているとしてもわからないということがしばしばなのです。



ただ、執行猶予で社会内更生をさせるか、実刑にして社会から切り離して叩き直すか、ギリギリな件というのもあります。
そういったギリギリな件では、信用できそうな情状証人がついてくれているから、社会内更生にかけてみようという考え方が裁判官の実刑か執行猶予かという、被告人にとって非常に重要な判断の揺れに影響することは十分考えられます。



とはいえ、執行猶予ほぼ確実という件ならば情状証人は不要、という考え方は私はとりません。
実刑の場合同様処罰や猶予の年数が変わってくる可能性もあるのはもちろんですが、それだけではないのです(そもそも再犯しなければ猶予期間も処罰の年数も関係ないですし、「再犯すること前提で弁護を頼む」被告人はそうはいないでしょう)。


この場合、裁判官への量刑減少への働きかけという効果以上に、被告人自身への更生への呼びかけとしての効果が大切です。


裁判に出てきて、被告人が自分のために証言してくれる情状証人の方を見ます。

そして、更生への誓いを新たにし、後日例えばまた覚せい剤をやりたくなってしまった、飲酒運転をいいか、と思ってやってしまいたくなったというときに、情状証人に立ってくれた親族の方を思い出してもらう。

そういった意味でも、情状証人の方は重要になりますし、これは猶予か実刑が事前に決まっていたからと言って無意味なものではありません。



また、情状証人自身の決意も新たに、考えるべきことを考えてもらいます。
被告人の問題行動を知りながらこれまで甘やかしていなかったか。
おかしいと思っていながらついつい見過ごしてしまっていなかったか。
情状証人側にも、そういった被告人との関係を見つめなおす機会としてもらう。
情状証人側の意識が緩んでしまった時には、法廷で話したことを思い出してもらう。
ただ単に傍聴席で座って見ているだけでは、そのような情状証人自身への見つめなおしの効果を期待することは難しい(あったとしても実際に立つのには及ぶべくもない)でしょう。

執行猶予ほぼ確定、その日で判決を言い渡す即決裁判でも、私は情状証人を立てたことがあります。
もちろん、通常の事件と比べてかなり手短に済ませましたし、情状証人側から頼まれたという背景もありましたが、それは、こういった効果も期待できると考えてのことです。




他方で。


その視点を踏まえても、「この人に情状証人として立ってもらうのは本当に適切だろうか?」というケースもあります。


偽証予定などは論外(そういう証人を申請するのは弁護士倫理の問題にもなりかねない)です。

そこまでいかなくとも、情状証人として真剣にやるならなすべきことをやろうとしない情状証人の方もそれなりにいらっしゃることも残念ながら否定できません。

接見禁止でもなく期間にもそれなりに余裕があるのに、忙しいなどと言って被告人と一度も会わない。
弁護人の質問にも生返事。
特に難癖とも思えない質問なのに、検察官や裁判官からの質問にも何も答えられない、その場で必死に考えるでもなく明らかに適当な答えを返している。

覚せい剤事件で、以前覚せい剤で服役した際の受刑者仲間(しかも釈放されてさほど経ってない)に情状証人に立ってもらいたいといっていた人もいたと聞きます。
出所者の更生を疑うことは弁護士として複雑ですし、覚せい剤抜ける組織で励まし合うという可能性もあるのでしょうが、情状証人の人材としては適切ではないでしょう。



通常の刑事裁判であれば、こうした問題のある情状証人であっても、裁判官がその辺は「法曹的配慮」をして「プラスに酌まない」ことはあっても「マイナスに酌む」ようなことは基本的にせず、判決理由では儀礼的に一言触れた上で(触れもしないで判決するのは無用な控訴を招く危険もある)、言い渡す刑罰としてはプラスに酌んでいない判決を出すという対応をする場合が多いと思われます。

とはいえ、裁判官の量刑にも感覚的なものは少なくないだけに、無意識的な悪影響がありえることは否定できません。

さらに特に裁判員裁判となるとそういった「法曹的配慮」が通用しなくなってきます。
ただでさえ、帰住先がある、面倒を見てくれる家族がいることを「良情状ととらえない」どころか「悪情状」ととらえる裁判員も指摘される中で、下手な情状証人が立つことは完全な逆効果で「誰も情状証人に立たないより量刑が重くなってしまいかねない」という指摘さえもあります。(参照:こちら



また、もう一つの問題として、法廷では検察官、場合によっては裁判官からも厳しい反対尋問が予想されます。

そういった尋問の当否についてはまた後日触れることにしますが、そういった辛い尋問にさらしたり、法廷で醜態を見せることは、量刑上も有利にならないどころかケースによっては情状証人と被告人の間に心理的な亀裂を生んでしまい、せっかく社会に出た後の受け入れ先が自ら潰れてしまう…という本末転倒な事態を招く危険さえあります。


そうすると、弁護人サイドとして、情状証人に情状証人として十分な対応が期待できない場合には、あえて情状証人を立たせず、裁判では傍聴にとどめる、あるいは裁判外で面会したりするのにとどめることが被告人のためであるという対応も十分考えられるでしょう。
とはいえ、信頼関係の問題があるのは前記した通りですから、結局は被告人&情状証人を言葉柔らかに説得するのが通例でしょうし、双方からそれでも押されれば偽証予定というのでもない限り結局申請する弁護人が多いのではないかと思いますが・・・。



そんなわけで、私は情状証人との折衝を行うにあたっては念押しをしています。

被告人から折衝を頼まれた時には必ず情状証人は大変であること、情状証人にも厳しいので辞退する権利があることを伝えることを前提の折衝とします。
情状証人にも反対尋問があってそれなりに厳しいこと、無理をする必要はないことを必ず伝え、それでも証言したいという方にのみ情状証人に立ってもらいます。
それで辞退する方にも必ずフォローをし、代わりに立つと決めたのであれば必ずこれをしてほしいということを伝えています。




情状証人に立ちます、という方は弁護人としてはありがたいですが、本気で被告人に有利な判決を取るために情状証人に立つというのはそれ相応の覚悟を持ってもらう必要もあることなのです。

情状証人を志願する方は、そのことをくれぐれもお忘れなきようお願い致します。





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最終更新日  2015年09月20日 00時15分55秒
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