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碁法の谷の庵にて

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2015年12月30日
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 何らかの刑事事件をやってしまったとしましょう。
  
 自分はやってしまったのは事実なのだから、あえて弁護人は頼まない、当番弁護士もいらないという人も見かけます。
 それはそれで本人の選択なので、ここではあえて弁護士をつけないことをとやかくはいいません。

 しかし、警察や検察はここから取り調べをしていきます。
 やってしまったのが間違いないのであれば、被疑者が当然なすべきことの一つは事件に関し、知っていることについては洗いざらい白状した上で、反省し、もう二度としないという姿勢を示すことです。
 その反省について、個人的に考えたことをここから書いていきます。


 「裁判にかけられた後、法廷で見せる反省の態度」というのは、特に比較的軽微な事件においては、実は「証文の出し遅れに近い」と考えています。

 裁判官は検察官の求刑を大いに参考にします。検察官が軽めに求刑してくれれば、裁判官も求刑以上に踏み込むことはなかなかしませんし、逆に検察官が重めに求刑してくれば、裁判官の判決も重くなってきます。反省の態度は、検察での取り調べの段階でしっかり見せ、検察官から説得するのが、反省の態度を量刑上酌んでもらう最良の方法と言えるでしょう。
 もちろん、そのような反省の態度にちょっと問題があったからと言って、いきなり量刑が大幅に跳ね上がるわけではありません。とはいえ、「小幅」でも、懲役なら2カ月3カ月程度のズレは優に出てくることにはなります。
 自白事件で1時間も行われない公判での反省の態度が全てを決する、というのは、裁判制度の本筋からすれば理想かもしれませんが現実的ではないと言えます。
 
 つまり、裁判になってからついた、弁護人のアドバイスを受けて反省・・・というのでは手遅れの場合もあるのです。
 
 
 そして、私が弁護人として面会すると、「私は反省しています」という人はたくさんいます。自白事件ならほぼ全員に近いとさえ言えます。 
 彼らは少なくとも意図的な嘘はついていないでしょう。「彼らなりの反省」はしていると見ています。
 そして、少なくともその時点では、もう二度としないぞ、という意識ももっているでしょう。
 出たら再犯上等!!なんてケースには私は遭遇したことはありません。

 しかし、裁判所とかが求める反省を出来ている人は決して多くない、むしろ少数派という感覚があります。


 そもそも犯罪者になぜ反省が求められるかと言ったら「再犯をしない原動力」として反省が重要だからです。
 刑務所に入らず、あるいは刑務所に入ったとして出所後、最終的には犯罪を止めるのは自分の意思しかありません。
 極論ですが、反省とは別口で、犯罪を二度としないことが絶対的に保証されるなら、反省は大した問題ではないとさえいえるでしょう。

反省して再犯しない>反省しないが再犯しない>(絶対に越えられない壁)>反省したが再犯≧反省せず再犯

です。

 そして、反省が再犯を防ぐ効果を持つには、それ相応の苦心もいります。
 ゼロからそこまでの反省をする、というのは、実は決してたやすいことではありません。
 

 更に忘れてはいけないこととして、裁判官も検察官も、反省という言葉を口にする人たちは見飽きています。
 「反省してます、もう二度としません。」といって処分を受けた上で社会復帰したのに、しばらくして「またあなたですか・・・しかも前と同じ犯罪じゃないですか・・・」という例には、裁判官はしょっちゅう、検察官は更にしょっちゅう遭遇しています。
 例え本当に効果的な反省をしているとしても、裁判官や検察官に反省を信じさせる、というのはとても大変なことなのです。
 
 この点弁護人は、裁判官や検察官と比べると反省に対する評価は甘くなりがちになります。
 弁護人が「またあなたですか・・・」という例に遭遇するケースはほとんどありません。弁護士の眼に触れることすらなく処理されている例だって多いですし、こなしている件数自体、検察官とは比べ物にならないほど少ない場合が多いのです。
 また、弁護人がこの人大丈夫なのかと思ったとしても(個人的には経験あり)安易にあなたの反省は不安だ、大丈夫なのかと強く出て信頼関係が壊れることも問題があります。弁護人だって被告人にキレられて意思疎通不能になってしまい、肝心の公判がめちゃくちゃになってしまうのでは最悪ですし、人の反省を正確に認識することは難しいことがあります。
 つまり、不十分な反省しかできていないとしても、弁護人がその点をツッコんで自覚させられるとは限らず、被告人質問で検察官から尋問を受けて初めて不十分さが露呈していたことに感づかされる・・・そうしたらもう手遅れで、検察にしっかり重い求刑をされてしまうことになります。
 

 では、裁判所や検察官が求めている、量刑を有利にし、更生に資するという意味では弁護人も求める反省とはなんでしょうか。
 
 まずそれは、「絶対に次をやらない」につなげるためのものです。
「こんなことしなければよかったなぁ・・・」という心情は、「後悔」であって、反省とは異なるものです。
反省への原動力とはなるでしょうが、そこで止まっているのでは価値はないといってもいいでしょう。
 
 そして、「絶対に次をやらない」→「その為にはどうしたらよいか」とつながります。
 故意の犯罪は、窃盗や詐欺などの財産犯にせよ、薬物にせよ、交通違反にせよ、誘惑的なものが多いです。
 どうしても、「またやりたくなる」ことは避けられません。
 もうやりたくなること自体ない、という方もいますし、本当なら頼もしいですが、それは犯罪の誘惑に一度負けてしまった人の思考としては余りにも危険な認識と考えるべきでしょう。
 過失犯の場合、意志の力そのもので制御しきれる訳ではないため、ある意味「次をやらない方法」はもっと難しいと言えます。

 そこで振り返るべきは、罪を犯した時に自分はどうだったか、ということです。
 罪を犯したということは、罪を犯す誘惑に負けたことを意味します。
 「なぜ自分は一度犯罪をやりたいという誘惑に負けてしまったのか」
という思考にたどり着いた上で、さらに
 「もし今後やりたいという誘惑に駆られてしまったらどうやって負けないように振り切るか」
というのを考えていく必要があるのです。

 そして、この振り切り方、というのも、ただ「心を強くする」「もう懲りました」では不十分です。
 もっと具体的に、「何を考えて振り切る」「誘惑の発生しやすい環境から距離を置く」といった具体的な対応までしっかり考えて欲しいところです。

 その中で、例えば物理的に犯罪ができなくするように、周囲の環境を整える、というのも大事になります。
 時には、家族などの協力を仰ぐことも必要になるでしょう。
 例えば、万引きを繰り返してしまう人の場合、必ず買い物には家族に付き添ってもらう、あるいは家族にすべて買い物に行ってもらえば、万引きはできないでしょう。
 身柄を拘束されているならば家族などと連絡を取り、そういった協力を要請するのは弁護人の出番と言えます。
 他方で、家族などの協力もあくまで任意に行われるものですから、ときには「あんな奴もう家族でも何でもない。」とにべもない対応が返ってくることだってあります。弁護人だって、あまりしつこく協力を要請しすぎるわけにはいきません(執拗すぎる示談交渉が懲戒理由になった例がありますが、執拗すぎる家族への支援要求も懲戒理由に当たり得るでしょう)。
 その場合には、なぜ家族にここまで見放されたのか、ということを踏まえ、どうやって家族との関係を修復していくか、ということまで考える必要もあるでしょう。


 現実にここまで考えている人はほぼ皆無に近いです。
 私が自白事件を弁護するときは、大概上記のようなことを私からアドバイスした上で、ここまで考えてもらい、被疑者段階ならば検察での取り調べで話してもらい、被告人段階ならば法廷での尋問なり反省文なりで出すというのが反省に関しての私の基本的な弁護方針だと言えます。
 そして、これは裁判を有利にするだけでなく、出所後本当に再犯せず暮らしていくためにも重要なことです。
 「裁判の時だけの反省」などは、法廷で馬脚を現すだけだ、という認識でいます。
 

 もちろん、ここまで考えることは、たとえ弁護人からアドバイスして道筋がついても「苦しい」ことが少なくありません。
 「自分の罪を振り返ることが苦しくない」なら、むしろその方が危ないのではないでしょうか。
 また、環境を整えることができればいいですが、現実的な解がなく最終的には「意思を強く持つ」「裁判官に法廷でした誓いを思い出す」といった答えしか出せないような事件も正直あります。
 そういった件では、やはり検察官からの反対尋問もそれ相応に厳しくなりますし、裁判官もこの人大丈夫かなぁと考えることになるでしょう。

 それでも、最大限今後に生きる反省は、上記のようなことまで可能な限り深く考えた反省である、と私は考えています。





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最終更新日  2015年12月30日 06時38分38秒
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