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碁法の谷の庵にて

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2022年03月16日
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カテゴリ:囲碁~碁界一般編
とある囲碁ニュースに接して、思ったことを。


 最初に断っておきますが、私は棋士になったことはありません。院生になったことすらありませんし、外来でプロ試験を受けたこともありません。
 年齢制限無視してプロ試験に参加し、全部2子局で打ったとしても、多分合格できるほど勝てないだろうと思います。
 そんな私がこんなことを言うのは増長も極まる!と罵倒されても仕方ないのかもしれませんが…




 入段したときの新初段シリーズの記事の中で、割と大言壮語を吐いていた某棋士。
 私としては、変わってるなとは思いましたが、それだけの意気込みがあってのことだと思いましたし、大言壮語と取れる言葉にもむしろ好意的な感情を抱きました。
 週刊碁の方も、むしろそういう大言壮語を歓迎するかのような記事の書きぶりだったように思います。
 多くの新初段棋士が優等生的なことばかり言いがち(もちろんそれは悪いことではありません)なので、頑張ってほしいなと素直に思ったものです。

 ただ、新初段シリーズの記事からそういう印象を持ったという程度の話で、私が彼に特別注目していたというわけではありません。
 私自身、最近は週刊碁すらさほど読んでいなかったくらいです。

 そんな中でその棋士に関して入ってくる情報は、棋戦での活躍というものではありませんでした。
 棋戦でもさほど勝てておらず、昇段もあまりせず、対局でも明らかに投げているべき差の碁を作っていたり、アマチュアに大敗しているよう例も目に入りました。

 私の情報不足でたまたまできの悪い状態だけが目に入っちゃってるのかな?とも思いましたが、実のところその棋士の成績は絶不調と言えるもので、さらに手合いを休んでいたというのです。

 医師への転身を目指して休場している坂井秀至プロのように、何らかの明らかな原因で休場しているということであれば、それはそれで何らかの前向きな対応と取れなくもありません。
 しかし、棋士の知り合いからも状況不明、連絡も取れなくなって心配されているという話までが登場するに至って、これはもう何かまずい異変があったのでは・・・?という推測が頭に浮かんで仕方ないのです。


 「ヒカルの碁」で佐為がいなくなったことで入段してまださほど日が経っていないヒカルが落ち込み、手合いに出てこず囲碁自体を辞めようと考えてしまうというエピソードがありましたが、それでもヒカルはまだ碁を辞めようという程度で済んでいたとも言えます。
 彼自身まだ中学生、その時点で学校の成績は大分落ち込んでいたようですが、それでも囲碁と無関係な人生を立て直すことだって可能な年齢でもあります。


 しかし、「勝てない棋士」にとって、そうした精神的な辛さは、本当に「碁を辞めよう」で済むのでしょうか。
 あくまで「人によっては」ですが、もっと強い形で追い込まれてしまうのではないか。
 そう感じることがあります。
 全く勝てないどころか世界戦でも暴れ回っていた中国の范蘊若八段も、結局鬱に陥って自殺してしまいました。


 厳しいプロ試験を勝ち抜いて棋士になったはよいが、うまい具合に勝ったり昇段したりできない、あるいはそれなりに上り詰めたものの何らかの原因でそこから滑り落ちていく棋士は確実に現れます。
 それに対して、「棋士になったからには、勝てなくても自己責任。嫌なら今からでもプロを辞めたら?」と言う考え方は、誰にも動かせない正論でしょう。
 しかし一方、正論であるばかりにそれは「勝てない棋士」をどうにもならないほど追い詰めるものだろうと思います。(もし面と向かって言ったりしたらパワハラですよね)
 一定のプレッシャーは成長の原動力にもなるでしょうが、とにかく強いプレッシャーを与えれば勝てるようになる!と言うほどプロ囲碁界は甘くないだろうと思います。

 そんなプレッシャーを気にせず、勝てないなら肩肘張らずに囲碁普及に軸足を移せばよい、と言うのも正論でしょうし、実際少なからぬ棋士がそうしているのでしょうし、それを悪いとは思いません。
 しかし、「普及がやりたくてプロ棋士になる」棋士は少ないでしょう。多かれ少なかれ、棋戦で大暴れしたくて棋士を目指した人が大半のはずです。
 一昔前は、外来の棋士採用試験受験者もそれなりにいて、そういう棋士に「普及がしたい」と公言している棋士もいた記憶がありますが、院生中心の最近のプロ採用であればなおのこと「棋戦で活躍したい」というのが主たる動機になるでしょう。
 そんな彼らにとって、「プロになったはいいが、まるで勝てない」という状況がどれだけの精神的負担なのか。
 

 私自身、仕事などでそうしたプレッシャーに負けて、精神的に潰れかかっていたり、時には馬鹿なことをしてしまう(薬物に手を出してしまうとか…)人を自分側でも相手方でも見ることがあります。
 棋士のようなアスリートにだってそれはあるだろうと思います。
 別に囲碁界だけが特殊なのではなく、プロ野球やサッカーのようなスポーツ選手などにもそういう人はいるでしょう。
 ただ、そうしたプレッシャーから挫折した方々は、一般人の目に入らないまま消えていってしまうだけではないでしょうか。
 
 

 そうして挫折してしまった棋士に対して、「個人事業主だから、メンタルケアも各人で何とかしてね!!」で済ませて良いのか。
 無限の財源なんかあるはずもない以上、引退という結論になるのは仕方ないにしても、「壊れた心を抱えたまま放り出される」ような形にしない方法はないのか。

 …それとも、私がただ単に想像をたくましくしすぎて全く必要のないケアの必要性を感じているだけなのか。


 囲碁界の内情に詳しいわけではありませんが、そういうことを考えてしまいました。





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最終更新日  2022年03月16日 23時00分06秒
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