カテゴリ:事件・裁判から法制度を考える
裁判で国に「盗聴」疑惑! 退席中も原告と裁判所の会話を録音、「前代未聞」と弁護士が抗議(弁護士ドットコム)
国に対しての労働裁判で、国の指定代理人が、弁論準備手続を無断録音したとして大騒動になっています。 指定代理人とは国や地方自治体を当事者とする民事裁判や行政裁判で、法務大臣の指定を受けて所轄の職員や主務官庁の職員が代理人をするもの(法務大臣権限法)で、指定代理人は特に法曹資格を持っている必要はありません。 もちろん弁護士や、訟務検事(国の代理役をする検察官)などが代理人として立つこともできます。 他方、弁論準備手続とは、裁判で争点を整理したり当事者間で話し合いで合意するために非公開で行われる手続です。 話し合いをまとめるために、原告被告裁判所の三者で一斉に話し合うこともありますが、裁判所と原告が2者でのみ話した上で、話し終わったら被告に入ってもらって裁判所と被告の2者で話すと言うこともごく普通に行われます。 今回無断録音が行われたのは弁論準備手続で、「原告と裁判所が2者で話し合っているところを被告の国が録音した」というものです。 裁判手続において、録音がしたいというケース自体は、実はそれなりにあり、裁判所の許可を得て「録音しても良いか」と言った上で、裁判所も許可を出すケースもあります。 書記官などが正式な記録を作るのにも時間がかかったりしますし、メモをとったり、その場の質問に対して記録を見返したりでわちゃわちゃすることもあり、うっかりメモし忘れなどがないようにするためにも、録音したいと言うこと自体は一概に悪いとは言えません。 特に、法曹資格がなく不慣れな指定代理人だったとすれば、なおのこと裁判官の言っていることがその場でよく分からず、後で聞き返したい、決裁権者に聞かれてもよく分からないという事態がないようにしたいという希望が生じるのも無理もないことだろうと思います。 ある種の「高性能なメモ」として録音を使う分には、広く認められてもいいものではないかと思っています。 そういう意味では、今回の指定代理人も、悪意を持って情報を盗もうとしたというわけではなく単に「うっかりだった」と言う弁解そのものは、嘘ではないかも知れないと思っています。 本当なら原告-裁判所間になった時点で録音を止めるか持ち去るかすべきなのを「うっかり」というわけです。 以前の期日についても録音されていたと言うことですが、前々からそういう思考で録音していたので、結果的に前回のものも録音してしまったとみれば、一応はあり得る弁解だろうと踏んでいます。 しかし、あくまでこれは好意的解釈ですし、この解釈が正しかったにしても、メモを越えた盗み聞き対応は絶対に許されないのは言うまでもありません。 例え結果的に聞かれて困ることは何一つ話していなかったとしても、盗み聞きは私なら強硬手段に打って出ます。 このような対応を許せば、当事者としては対裁判所だからこそ話せる内容を全て盗まれ、弁論準備手続の機能が大きく阻害されることになります。 少なくとも、当事者は「相手方に漏れてもいいこと」しか話せなくなり、和解などによる紛争解決に巨大な支障を来します。 それだけではなく、無断録音しても裁判官に注意されるだけで、特に何の制裁もないですよとなった場合、事件によっては一般の事件に波及する危険もあります。 国だけは無断録音OKで、弁護士代理人や当事者の一般人は録音ダメ、等と区別できる理由は全くありません。 つまり、この件に甘い対応を取れば、他の件にも甘い対応を取るしかないのです。 本人が訴訟に出ている場合、相手方に危害を加えることさえ視野に入っているような危険人物が当事者のケースもあります。 例えば、DVやモラハラの絡む離婚事件などが典型です。 加害者側は弁護士も無理筋過ぎて誰も受けず、仕方なくと言った体で加害者本人が出てくるケースも多いわけです。 こういう事件で相手に漏れないと信じて伝えた情報が漏らされてしまった場合、「盗まれた情報から当事者や関係者の生命・身体が危険にさらされる」ようなケースだってあり得ます。 例えば、DVから逃げ出して、住所も明かさずに書類なども全て弁護士の事務所に送らせる形で訴えを起こしていた配偶者が「今ここに身を寄せてて生活費が必要なので、和解するにしてもいくら位…」と話したのが盗み聞きされたら、一発で住所に殴り込みをかけられるリスクになりかねません。 裁判所はこうした件に対しては法廷警察権などを駆使して厳しく対処すべきであると考えます。 余談ですが、今回のケースで、法務省は「防衛省の職員がやらかしたことだ」と言う話をしているという話でした。 防衛省は機密第一の組織ではないのでしょうか。 無断録音自体、裁判所での振舞として問題外だと思いますが、「立ち去るに際してファイルを置きっぱなしにすること」も、機密の非常に重要な組織の対応としてあまりにも不用心だと思えてなりません。 私自身、弁論準備手続で退席する場合もファイルを置きっぱなしにしないようにしていますが、それは録音の疑いを持たれないためではなく、不用心だからです。 大荷物なケースだと、別の弁護士に見ていてもらうか、どうしても他にいない場合「書記官ごめんなさい、みていて下さい!!」と言ってダーッとトイレに駆け込んだケースもありました(本当の非常手段であり、推奨される手法ではありません!)。 裁判制度の運用としても問題外ですが、指定代理人にするような人物がこんな体たらくで、防衛機密がきちんと扱われているのかと言う方面の問題も不安になってきました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2022年10月12日 20時12分39秒
コメント(0) | コメントを書く
[事件・裁判から法制度を考える] カテゴリの最新記事
|
|