カテゴリ:事件・裁判から法制度を考える
国際ロマンス詐欺について、弁護士への依頼について、東京弁護士会や大阪弁護士会、千葉県弁護士会が警戒を呼びかけています。
そしてついには弁護士の逮捕者が出るに至っています。 千葉県弁護士会は、ズバッとこんなことを書いています。 「国際ロマンス詐欺の被害回復は現実には難しく、多くの場合、被害を全く回収できないか、ごく少額の回収にとどまることが多いのにもかかわらず、弁護士に依頼すれば高額の回収が確実であると誤信させるような弁護士業務広告をしていたケースが見られます。」 こと詐欺事件では、弁護士に依頼したから被害が回復するか、というとかなり難しいのです。 統計がある訳ではありませんが、こと国際ロマンス詐欺について感覚的に言えば、「弁護士を頼まなければ可能性は0%、頼んだとしてコンマ1%になる」程度でしょうか。 そして、そのコンマ1%のために弁護士の着手金を払うのですか、となると、全く割に合わないが結論になるのです。 警察に通報して、警察が詐欺師を逮捕し犯人が減刑目当てで金を返すと言ってくるのを狙う方がまだ可能性があるんじゃないかな…と個人的には思っています。 もちろん警察を動かそうとしても、現実には ・民事不介入などを理由に介入を渋られやすい ・証拠不十分とされやすい(金銭の移動だけでなく、それが詐欺によるものかまで立証しなければならない。また「騙すつもりはなかった」という弁解も論破しなければならない) ・国際ロマンス詐欺の場合、海外に逃げられてしまって主権国家の主権の前に日本の警察権すら及ばず、警察が本腰を入れてもどうしようもない ・警察ですら金銭の行き先を把握できない ・奇跡的に金銭の行き先を把握できても被害者間で奪い合いで残るのが雀の涙となる可能性が高い といった具合で、実際の所は警察もあまり頼れません。 そして、個別弁護士には上記のようにあまり頼れない警察のような強制的な捜査権すらありません。 警察が照会すればスムーズに応じてくれるのに、弁護士では弁護士会を通してすら照会に応じてくれないなど珍しくもありません。 一介の資格保持者に過ぎない弁護士に警察以上のことができるかどうかは怪しいを通り越して無理です。 例えば弁護士に依頼して国際ロマンス詐欺の金銭取り返しを求めたとしましょう。 海外からやっているというのがフェイクで、100%日本国内で完結しているような詐欺行為で、口座に振り込んだお金を差し押えられるのが数少ない被害回復の可能性ですが、国際ロマンス詐欺となると海外が絡む可能性を避けられません。 日本の法律で裁ければ良いですが、現地の法律が適用されるので対応できませんよ、と言うことだって考えられる訳です。 例えば海外口座の預金の差押なんかをしようとすれば、ほぼ間違いなく現地の法令に従うことになります。 差押というのは国家の主権が及ばなければできないことなので、日本国の主権の及ばない海外に日本の法令や裁判を持ち出して差し押えさせろと言うのは無茶な相談なのです。 海外の訳の分からない国の訳の分からない裁判持ち出して「日本国内のお前の財産差し押える」なんてことがされないのは、ひとえに日本国の主権であなたが守られているから。 日本法準拠で海外の口座差押を認めろというのは、それが認められてしまうと言うことに他なりません。 それで何とか外国法の土俵に乗るとしましょう。 しかし、最近は外国法を扱うことのできる弁護士も増えていますが、「どこの国も扱えます」なんて弁護士がいるはずもありません。 奇跡的に該当国の法令を扱える弁護士を見つけたとしても、海外案件を扱うとなれば、相応に高い報酬を頂くことになります。特別な資格に基づかなければ扱えない事件を扱う訳ですから。 それすらもらおうとしないというのは、「本気で解決する気あるのかどうか」を疑わざるをえないでしょう。 そして、それだけのことをやっても、「もう口座から金銭払い戻されてしまいました」と言われてしまえば終わりで、弁護士に払った費用だけ丸損になる訳です。 もちろん、日本国内で完結していても、入金された金銭は払戻しされていて行方が分からず、お手上げという事態は珍しくもなんともありません。 私自身、前々からこう言う広告を見て、「どういうやり方で回収してるんだろう?怪しいとは思うのだけど、もしかして自分の知らない何かがあるかもしれないので、あまり強い事も言えないな…」と思っていましたが、弁護士会などが調査に入っても好結果の事例がほぼなく、また東京投資被害弁護士研究会においても解決事例がほぼないという話が出ているので、結局の所は単に取れそうもないものを取れるよ!と言って勧誘しているに過ぎないと考えられるでしょう。 結果として取れなくても、「もっと時間がかかる」「あなたの件はうまくいかなかった」といって言い逃れをしているという訳です。 そして、なぜ弁護士がロマンス詐欺解決などと言う広告を打つのでしょうか。 まず、この手の詐欺に引っかかる人は弁護士が「回収できるよ」と言えば簡単に信じて着手金を払ってくれるようなタイプの人。 結果的に回収できなくても、元々難しい事件であり仕方ない、ということになるし、「回収できないリスクはきちんと説明したよ」としらばっくれることもできるので、そう言う広告を狙って打っている…と考えられます。 もちろん、弁護士が好結果を請けあったり、解決の見込みのない事件を受任する事は禁止されています(弁護士職務基本規程29条)し、将来の不確定な事項について確実であるかのような吹聴をすれば契約を取り消す理由になります(消費者契約法4条1項2号)が、請け合ったなんて証拠はないし、はっきりと請け負う形を取らなくとも「取れると思うんですけどね~」等と断定しないように言って、調べた末に「調べた結果取れないことが判明しました」といえば言い逃れがしやすい…という発想があると思えて仕方ありません。 そして、裁判で誇大広告を追及しようとして、基礎になった事件はどんなものだと明らかにさせようとすると「営業の秘密だ」「守秘義務だ」などと逃げようとすることを視野に入れているかも知れません。(これは想像ですが) 更に、東京弁護士会は、こうした広告の裏に、法律上弁護士でなければできない仕事をするべく、特定の弁護士の名前を借りて仕事とカネを集めようとする業者…いわゆる非弁業者の存在を強く疑っています。(上記の弁護士会の注意喚起は非弁提携弁護士対策本部から出ています) 先日も、過払金請求の依頼者を広告で集めた事務所が、集めた依頼者の過払金を大量に流用した挙げ句に倒産した事件で、背後にいる非弁業者の「もずく(仮)」が事務所を支配して流用に関わっていたのではないかと大きく報じられましたが、その同類ではないかと言う訳です。 こういう業者は、悪質弁護士とグルというケースも多いですが、弁護士自身、単なる業務上の協力者だと思って協力していたら気がついたときには多額の広告費などの債務や、業務全般を握られて(事務員もその業者から派遣されていたり)操られており身動きが取れない場合もあるという話があります。 そもそも、国際ロマンス詐欺の弁護士広告が問題になって、私の知る限りでも数ヶ月が経っているにもかかわらず、今なおホームページを閉鎖するなり模様替えするなりせず、似たような広告を打っている弁護士や法律事務所が存在しているという時点でかなり奇妙であり、もはや広告を出している弁護士自身も広告ホームページをコントロールする事ができず、閉鎖したくてもできないような状況に陥っている可能性さえ、危惧しています。 また、「ロマンス詐欺は自分たちに依頼すれば被害回復に繋がるよ!!」と言う広告が危険なのは、弁護士に限った話ではありません。 司法書士だったり興信所(探偵事務所)だったりというような別の士業や事業者でも同様です。(国際ロマンス詐欺と無関係ですが、被害回復をうたって全く見込みのない依頼をさせる探偵なら国民生活センターが注意喚起をした事があります) 最初の相談だけ無料をうたっているところも多いですが、そこだけとっかかりをつかめば、そこから口八丁手八丁で正式な契約に持って行かせるのが彼らは最悪に上手なので、無料の分だけやってみようなどと考えるのは危険極まるでしょう。 私自身、今の仕事をやっていて、相手が100%悪いと青筋立てたような件でも、「諦めて下さい、回収の見込みが低すぎて、私に払うお金が無駄になってしまいます」と伝えざるを得ず、歯がみした事件がなんと多かった事か。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023年12月05日 22時00分08秒
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