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テーマ:宮沢賢治(13)
カテゴリ:読書
宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」をモチーフにした演劇を観に行ってから宮沢賢治に関する本を色々読んでいるが、その中に東大戦没学生の手記「はるかなる山河に」があった。これは東大生が学徒出征して、戦死した学生たちの手記をまとめたものだ。
それを読んでいたらその手記の中に宮沢賢治の童話のことを書いていた学生がいたので紹介する。 それは経済学部学生 佐々木八郎さんの手記で東大2年生の時、昭和18年11月10日の出陣に際して書かれたものである。彼は昭和20年4月14日沖縄の海上で特攻隊員としての任務を果たして戦死した人である。その手記の題は「愛と戦と死」だった。副題は宮沢賢治の「烏の北斗七星」に関連してだった。 冒頭から宮沢賢治について書いているのでそのまま引用させて頂く。 「宮沢賢治はその生い立ち、性格から、その身につけた風格から、僕の最も敬愛し、思慕する詩人の一人であるが、彼の思想、言葉を変えて言えば、彼の全作品の底に流れている一貫したもの、それがまた僕の心を強く打たないではおかないのだ。『世界が全体幸福にならない中は個人の幸福はありえない』という句に集約表現される彼の理想、正しく清く健やかなものー人間の人間としての美しさへの愛、とても一口には言いつくせない、深みのある、東洋的の香りの高い、しかも暖かみのこもったその思想、それがいつか僕自身の中に育まれてきていた人間や社会に対する理想にピッタリ合うのである。『烏の北斗七星』中に描出された彼の戦争観が、そのままに僕の現在の気持ちを現しているといえるような気がする。 佐々木さんがそれほどまでにほれ込んだ賢治の『烏の北斗七星』とはどんな童話なのかと青空文庫で検索してプリントアウトして読んだ。A4版5枚の童話だった。烏の軍隊が山烏と戦争する話で、烏の大尉にはいいなずけの烏がいた。大尉は明日山烏との戦争に自分に出撃命令が出された。戦争なので死ぬかもしれない。その時はいいなずけは解除だから他の烏の所に嫁に行ってくれというが、いいなずけは「それはあまりにひどいわ」と泣き崩れる。戦争は大尉などの活躍で山烏に勝つことができて大尉は少佐に昇級する。 昇格した少佐は北斗七星に向かって「どうか憎むことのできない敵を殺さないでいいように早くこの世界がなりますように、そのためならば、私の体などは何べん引き裂かれてもかまいません」と祈る。 これが大体のあらすじだが佐々木さんががなぜ特攻隊を志願したかについては「日本に生まれた人間としてその運命のままに戦い、お互いが全力を尽くすところに世界史の進歩もあると信じ、人間らしく卑怯でないように生きたい」としているが志願理由を文章にするのは難しかったと思う。 その時の青年たちの考えは様々だったと思うが、基本的にはお国のために尽くすというのは子供の時から刷り込まれた考えで、そのためには命も惜しまないと考えた若者は多かったと思う。そのような状況の中で宮沢賢治に憧れた青年がいたのかと思うと救われたような気がした一方、戦争の悲惨さを改めて思った。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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