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テーマ:失恋(68)
カテゴリ:読書
菅原千恵子さんの「宮沢賢治の青春」の中で賢治の「冬のスケッチ」に関する考察が書いてあった。冬のスケッチは賢治が保阪嘉内と別れた後に書かれたものだが、悲しみに満ちた表現が多い。
例えば ひたすらにおもいたむれど このこいしさをいかにせん あるべきことにあらざれば よるのみぞれを行きて泣く など恋しい人と別れた悲しみが延々と綴られている。 多くの賢治研究者はこの時期に賢治に好きな女性がいてその女性と別れた悲しさを詠んだものだとしているが菅原さんは法華経一筋だった賢治にその時女性の恋人はいなかった。妹トシを恋人としてその病気を悲しんで詠んだのではないかという評論家もいるがそれも違う。失恋の相手は保阪嘉内だったと述べている。 大好きな保阪嘉内と世界一の法華経を保って生きていくことを夢見ていた賢治は久しぶりに東京で会った時に、熱心に法華経入会を勧誘した。それにに対して嘉内は「法華経信者として生きていくための具体的な望みや願いは何か?ただ南妙法蓮華経を唱えるだけでなく、具体的な生活法を教えてもらいたい」と質問した。賢治は嘉内と一緒に信仰の道を歩んで行きたいと夢中になっていたが、嘉内の質問に的確に答えることが出来なかった。 「そのような曖昧なものに入ることは出来ない」と嘉内は決然と去って行き、賢治は取り残されて悲しみのどん底に突き落とされた。それまで賢治は「南無妙法蓮華経」と唱えながら街中を歩くほど熱心だったが、嘉内と別れた後は法華経の表現方法も折伏一辺倒から変わってきた。総ての人を幸せにするという法華経なのにこんなにみじめで不幸な状態になってしまったと法華経に対する疑問も湧いてきた。 いずれにしても保阪嘉内に去られた悲しみは耐えきれなかったと思われる。 殆どの評論家が賢治にかくれた恋人がいたのではないかと推察していたが、私は菅原さんと同様、嘉内と別れた悲しみを詠っていたのだなと思った。男でも女でも最愛の人と別れるのは辛いものだと思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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