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テーマ:障害者と共に生きる(143)
カテゴリ:読書
4階病棟の廊下に小さな本箱が置いてあり、その中に古ぼけた「続この道」という写真中心の本があり、なぜか目についたので回診の帰りに医局に持ち帰って読んだ。
その本の著者は障害者福祉ホームの所長井出たけ子さんが写真を解説するような形で書いた本であった。 教師をしていた井出さんは21歳頃同僚の先生と結婚し、長男が生まれた。学校の近くに家を借りて生まれた直後から学校の休み時間に授乳に行くと言う今では考えられないような育児生活を送っていたが長男は生後3か月頃40度の発熱が続き、脳性小児麻痺の診断で、色々な病院にかかったが結局治らない病気だと告げられ、手足に障害が残った。 それから我が子も含めた障害児の教育、訓練、授産施設の建設へと突き進んでいくことになった。その当時障害者に対する教育や福祉関係体制は今よりずっと整っておらず、県や国に陳情したりして教育施設を作り、障害者の生きる場を作り、障害者が働く場所(授産施設)を作り、最後には家族と障害者が一緒に住める障害者福祉ホーム建設までご主人の協力を得ながらやり遂げたのだ。本はその流れを写真つきで説明していた。 施設の壁に 夢は見るもの描くもの 描いた夢は消えぬ間に 確たる姿で残すこと 井出たけ子 の標語が貼ってあった。 井出さんは自分のことを「為せば成る」が口癖だった祖母の血を引いていると思い、為せば成るの精神でがむしゃらに突き進んできたとのことである。 競馬では競走馬の値段は祖父母の血統証で決まるとのことだが、人間でも親よりも祖父母に似ている人が多く、そう思っている人も多い。私も父より祖父に似たのではないかと思っているが、井出さんも「何でも本気でやれば出来るのだよ」といつも言っていたおばあさんの薫陶をうけて育ってきたので殆ど不可能と思えることにも挑戦し、それを突破して若き日に夢見たことを成就したのである。 ところで夢の障害者福祉ホームを作り上げた井出さんの息子さんはどうなったのか?息子さんはその時55歳になっていた。 息子と同じような障害者のために必死で戦ってきた井出さん。障害者だって不自由な体だけれど「やれば出来るのだ。そのために自分は献身する」という信念で突き進んできたが、教育施設を作り、授産施設をつくり、不自由な体でも字を書いたり、折り紙折ったり、仕事だって出来るようになれるのだと思って必死で障害者たちを教育、指導してきたが、いつしか生徒の一人である息子の心に不満がたまり、心を病むような状況をきたしてしまった。 自分は為せば成るの精神で突っ走ってきたが、誰でもがそうできるわけではない。障害者にとって過剰な期待や負荷はなかったか反省した。こちらはできると思っても障害者にとっては高すぎるハードルがあったのかもしれないとも思った。 自分も新しくできた障害者と家族が一緒に住める施設の一員として入居し、息子の気持ちに寄り添って一緒に暮らしていこうと思っていると述べていた。 障害のある息子を思う一念が同じような子供全体のことを思い、県下の障害児のための施設充実に生涯をささげてきたが、息子のケースを思えば他の子供さんも同じように辛いことがあったかもしれないとも思えた。 夢に向かって突進して、その夢を掴んだと思えてもまだまだそれは完全なものではないかもしれない。 しかし井出さんは想像を絶する戦いをして県下の障害者福祉政策に大きな足跡を残してきた。 県の障害者の福祉環境の前進、向上のために、全財産、全精力、全智力を捧げて下さった井出さんに心から感謝申し上げたい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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