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カテゴリ:読書
沖仲仕というのは貨物を埠頭から艀(小船)に載せて沖に泊まっている貨物船の所まで運び、それを貨物船に乗せたり、逆に貨物船の貨物を艀を使って埠頭まで運んで陸揚げする港湾作業員のことである。 火野葦平の小説「花と龍」には明治の終わり頃の沖仲仕の縄張り争いによる抗争がドラマチックに描かれているが、青山光太郎の小説の時代は昭和の中頃で暴力による抗争はなかったが、炎天下に40度以上になる艀の底での作業やラワン材運搬作業などはかなりハードで危険な仕事で毎月死者が出ていた。そのような所で働いていた青年が感ずるところあって努力して医師になった物語である。 沖仲仕時代は一緒に働く仲間は誰もその素性を喋ろうとはしなかったが死と隣り合わせのような厳しい仕事を通じて妙な親近感が生まれて、医師になってからどんな患者さんに対しても仲間のように接することができたのは沖仲仕を経験してきたからだと主人公は感じていた。 表紙の絵は青年医師が海の方を眺めている図で、目の先には昔沖仲仕として働いていた船が浮かんでおり、さらにその先には遠い大海原が広がっていた。 彼の夢はアフリカに行ってハンセン病の人達の治療にあたることだったが、それは大学医局の事情や家族の反対などで簡単に実現できることではなかった。 主人公は才能がないことを自覚していたので、それを補うべく猛烈に努力して医師になったがアフリカに行く夢は叶わず不本意なまま亡くなるが、奇しくも主人公が無くなってほどなくして孫が医学部に合格した。自分が叶えられなかった夢を孫が引き継いでくれるのではないかと結ばれていたが、一般世間で祖父母の夢が孫に受け継がれているケースは結構多いと思った。 「花と龍」の玉井金五郎と「沖仲仕が医師になって」の青山光太郎を比べると光太郎は腕っぷしでは金五郎に全くかなわないが、粘り強さでは引けを取らないと思った。金太郎の大立ち回りの人生に比べて光太郎のそれは地味だが、それなりに波乱万丈で面白かったので一読をお勧めする。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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