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カテゴリ:物語り
おはようございます。一週間のうち何日か、内容を変えて違った文章の味の日記を載せていこうと思います。どれだけ続くかわかりませんが。どうぞよろしくお願い致します。 これから、不定期に「生き物たちの詩」を掲載していきます
--生き物たちの詩-- こちらに来て間もないある夏のことである。明け方にかけてザーッと雨が降った。オーストラリアにしては珍しいことだ。雨上がりには、いつにもまして小鳥たちが大はしゃぎで、寝室の近くのこずえでさえずるので、朝は早くから目が覚めてしまう。 そんな朝は、ぬれた庭を一人で散歩するのがとても心地よい。 葉っぱがたくさん落ちて、ユーカリの木の香りがあたり一面に漂っていた。
我が家には古いベンジャミンの木があって、自由に伸び放題の枝の様子はまるでジャングルのように生命力に満ちている。 ふと、その根元を見て、私ははっとしたのだった。吹きだまった葉っぱにまぎれて小さな生き物が横たわっているではないか。 もうそれは息をしているかどうかさえわからないほど弱っていて、ただ目を閉じてじっとしていた。そっと抱き上げたときに、かすかにぬくもりを感じたため、ひょっとしたら助かるかも知れぬ、そんな淡い期待を持ったのだった。 つぶさに観察すると、時々しゃくりあげるような呼吸が 私の合わせた両手のひらの中でわずかに感じられる。 助かるかもしれない!
私は庭を横切ってこの小動物をまるで壊れ物を運ぶように軒下まで持ち帰った。 バケツの中にぼろきれを敷き、乾いた布で体を拭いてやると、そっとそのバケツの薄暗がりの中に横たえてやった。 これはポッサムの赤ちゃんに違いない。そんな予感がして、動物図鑑をぱらぱらとめくる。 どうもリングテイル・ポッサムという動物の子供に違いない。初めてこんな近くから手にとって有袋類の赤ちゃんを見れるなんて、思いもかけない幸運に胸がおどった。しかし一方、心のどこかでは、このまま死んでしまうのではないか、あまりに衰弱しすぎて自分の手には負えない、といった弱気の虫が頭をもたげて来てもいたのだった。
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