これから、不定期に「生き物たちの詩」を掲載していきます
ちっちゃい命はどうなるでしょうか?
--生き物たちの詩--
夜の間に迎えに来てあげてほしい。でも何もいわないで行っちゃったら、家族はみんな悲しむだろう。
野性に返してあげたい、でも返したくない。
こんな矛盾した私たち親子の心根を知ってか知らずか、
翌朝になっても赤ちゃんポッサムはバケツの中に丸くなっていた。
最初こそ力なくぐったりとしていた赤ちゃんだったけれど、
元気になるに連れて、その力強い野生が少しずつ戻ってきたように思う。
バケツに入れたスイカのスライスは半分以上おなかに入ったと見えて、幸いにも形が消えていた。
噛み潰した残骸が、ポッサムの健康さを物語っていた。
とにかくつめが鋭い。力なかったときには気がつかなかったが、こんな小さな赤ちゃんポッサムでも自分の意思でつめを立てると手の甲に血がにじむくらいの引っかき傷ができる。
半分見知らぬ人間に野生が抵抗して威嚇しているようにも見え、また半分赤ちゃんだから、あったかいもの甘いものを差し向けてくれる謎の人間の手に対して甘えているようにも見えた。
男にだって母性本能みたいなものがあると、このときに初めて感じた。
このか弱い、力ない、消えてしまいそうな赤ちゃんポッサムに、永遠の愛情を与えてあげたい、といった心の疼きがわき出でなかったか、といえばうそになる。
こんな異国の地にやってきた日本人の両方の手の中で、ぬくぬくと温かみを取り戻した赤ちゃんポッサムがその介護者とのミスマッチの分だけ余計にいとおしく思われて仕方ないのであった。
思えば、地面から拾い上げてあげたあの日、この赤ちゃんはもう死ぬところであった。
なぜならば、無数に群がったオレンジ色の肉食の蟻の群れが、今にも鼻の穴から内臓に向けて進入しようとしていたからである。
オーストラリアの蟻はどう猛である。木の上の枝にかかった小鳥の巣から運悪く落下したヒナが、発見が遅かったためにまるでシシャモ卵の軍艦巻きのように蟻にさされて死んでいるのを、一度ならず見つけたことがある。
そこいくと日本のクロアリなんか、比べ物にならないくらい優しいではないか。ここのアリはひどいものだ。
素足にかみつかれたもんなら誰でもみんなまず飛び上がる。
その痛さは、アシナガバチに刺されたときと同じくらいだ。そんなのに群がって噛まれたら、いくら哺乳類でも致命傷になるに決まっている。
この赤ちゃんポッサムがそんなぎりぎりの死との境を彷徨っていたなんて。
この世にはまだ神様はおられるではないか!