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カテゴリ:物語り
これから、不定期に「生き物たちの詩」を掲載していきます --生き物たちの詩-- ポッサムの住む田舎 気に入って移り住んだ中古の住宅は小高い山の丘の上にあった。 周りには豊かな自然が広がっていた。 我が家に導く曲がりくねった田舎道は、幹線道路から折れて一キロも続き、見飽きないほどの変化に富んでいる。 最後の枝道の脇には大人3人でも抱えきれないくらいの大木があって、その朽ちた幹にできた自然の洞穴から、赤いキングパロットが何羽も顔を出している。子育ての最中だ。 かと思えば、ある民家の庭には古びたみかんの木があって、コカトウーと呼ばれる白い大きなオウムがミカンの実を地面に落として曲がったくちばしでついばんでいる姿が垣根越しに見えたりする。
野うさぎが目の前の道をひょこひょこと横切っていくのなど、朝飯前だ。 日本の田舎よりもっと自然が豊かで、人間はその中にそっと住まわせてもらっているというのが正しいのかもしれない。
最近の、開発されて売り出し中の住宅地と違って、道路わきには緑色の古びたユーカリの木でできた電柱が並んでいる。傾いたのもあれば電線が垂れてしまったものもある。きっと昔は干し草を馬車でごろごろと運んだ田舎道であったに違いない。 街灯はあるにはあるのだが、旧式のもので夜に車のヘッドライトを消すと、文明の果てまでやってきたかのような、漆黒の闇の世界にぽつんと取り残されたような、孤立した錯覚にさえおちいるのだった。
わが敷地の中にはユーカリの木立や、やしの木がそびえていた。 前の住人が何年も枝打ちをしていなかったと見えて、引越しのトラックが我が家にたどり着くには太い枝を何本ものこぎりで切って落とさなければならなかったほどだ。
でも、そんな大自然の中の一軒家に住みつくかと想像するだけで、まるで子供のように心躍って夜も寝られなかったものだ。 何でも四半世紀以上もそこに建っていた、かなりのボロ家である。でも、家の価値よりも、あたりの自然の姿に完全に魅了されてしまったのだった。 この林の中にはどんな生き物が居るんだろうか、近くの沼地にはヘビの太いやつでも住んでいるのだろうかとドキドキ胸高鳴らせていたのだった。
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