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カテゴリ:物語り
これから、不定期に「生き物たちの詩」を掲載していきます --生き物たちの詩--
その中でもとりわけ奇怪な形をして空ににょっきりとそびえ立っていたのが、このベンジャミンの大木だ。 まるでジャングルだ。 そこは、小鳥にとっては隠れ家であり、営巣場所であり、熟した実を提供してくれる餌場でもある。
根元にはたくさんの気根が伸び、あたかもタコ足のように複雑にからみあって主幹となる最初に地面に生えていた幹を支えている。 この気根はお互いに癒着して、長い間には奇妙な穴を残して合体したり空洞を残したり、怪しげな自然の意図さえうかがわせる。 植物には意思がないかのように言われるけれども、この樹木を見ていると亜熱帯の風土に適応してまるで専制君主のように歳月を生きてきたかのように感じられるのだ。
かつてこの土地に住み着いた家族は、私の前にも何代もいるだろう。何十人もの人々が喜怒哀楽を乗り越えて、日々の歴史を刻んで行ったに違いない。
ところが、このベンジャミンの大木はそんな人間界の些細な出来事なんか関係ないといった感じだ。
たまたま、自分が今ここに住まわせてもらうだけで、誰が住もうとその土地に最初からいた小鳥やけものや、生えている樹木たちは自分たちの聖域をまもっているのだ。
住み着いた住人は、土地の境界線を変えることも、土地を切り売りすることも許されてはいない。ただそこに自然の一部として住まわせてもらうだけなのだ。
一方、この大木からは、俺は俺だ、勝手に枝伸ばしてどこが悪い!と言ってるみたいな、ある種の圧迫感さえ感じ取ることができるのだった。
あれは確か引越ししてきた日の夕方のことである。 この大木の真下に来て四方に伸ばした縦横無尽の曲がった枝のふところの中に入って、うす暗闇の天井を見上げたときのことだ。
何かがいる!
暗闇の中に光る二つの目玉。
暗闇に次第に目が慣れてくる。 そこは日中でも陽の射さない、時間も空気も静止した空間だ。 目を凝らしていると、枝と枝の中からじっとこちらを見ている生き物の姿が見えてきた。
型は小さいが、丸顔のフクロウである。 「俺はここの主だぞ」とでも言わんばかりの神秘的な眼光さえ放っているではないか!
私は恐れをなして、驚かさないように、そっと息を殺してその場を去ったのだった。
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