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カテゴリ:物語り
動物たちが語りかけてくるオーストラリアから
--生き物たちの詩-- 翌朝になると、夜明けを待ちきれないであの取り付けた巣箱を調べに行った。 まだじっとして中にいるだろうか? それとも親子で入っているだろうか? 樹下に近づくにつれ、胸は高鳴る。
朝早くから小鳥たちはそんな気持ちを知ってか知らずか、朝露のこずえからこずえへとさえずり渡る。
恐る恐る幹にのぼりあの巣の入り口から目を凝らして中の様子を伺ってみる。
いるか? いるだろうか?
しかし、 中にはあのぼろきれがちょこなんと残されているだけだった!
辺りを見回しても、夜明け間もない冷え冷えとした空気の中に 赤ちゃんポッサムの気配すら感じられなかった。
行ってしまった。 帰って行ったに違いない。
赤ちゃんポッサムは、きっとお母さんに行き会えたに違いない。 そう思うとそれまで心配していた心の張り詰めていた緊張の糸がふっと切れたような気がした。
一人で歩いてどこかに行ったとはとても思われない。 手も足もまだ、ゴリゴリの荒っぽい木の幹に爪たてるほどは発達してはいなかったからだ。 お母さんの背中にくっついて帰って行ったに違いない。
朝食のあともずっと、そう思うように自分に言い聞かせていた。 「きっとお母さんに行き会えたんだよね」 子供もそうぽつりと言った後は、もうしばらくの間は赤ちゃんポッサムのことは話さないようになった。
車で通るたびに、今でもついつい目がその巣箱のある方向に向く。 空っぽになって、たった一晩しか赤ちゃんを入れていなかったあの巣箱に。 今は、寂しくぽつねんと木の幹に縛り付けられているその巣箱に。
きっと、お母さんに行き会えて、幸せになったに違いない。 そう信じているのだ。
「夜の散歩に行こうか!」 夕ご飯が過ぎるといつも、子供と一緒にもうすっかり暗くなった庭の探索に出る。 ひょっとしたらあのポッサムの親子に行き会えるかもしれない。 そんな淡い希望も心の片隅には隠されているのである。
(ポッサムの詩、終了します。これから、この土地のこと、生き物や人々との関わりなど思い出深いことを書き続けていきます。) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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