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カテゴリ:物語り
これから、この土地のこと、生き物や人々との関わりなど思い出深いことを書き続けていきます。
「遠くビクトリアから来た夫婦が買っちゃうかも知れんですぜ、先に」 テリー親父が電話の向こうでつぶやくのが聞こえる。 「その人たち、気に入ってたようですか?」
「また見に来るって言ってたですぜ」 「んじゃ、私たちも一回物件見せてもらっていいですか?」
多少、脅しも入ってるな。テリー親父の口ぶりから分かるんだ。 こっちがいくら素人でも。
「ほいじゃ、いつにする?明日?あさって? あさってでいいよ、うちに居るようにするから」 こんな感じだ。素人っぽい。まさかペテン師とも思われない。だって金だけとってトンずらしようにも家屋という物件は持って逃げられんだろう。そう思うとちょっと元気が出た。 それに見るだけはただだ。
決められた日には門は開け広げられていた。どうぞ入ってください、っていう感じに。 入っていくとあの沼地がまぢかに見てくる。 そこで、私は信じられない光景を目の当たりにしてしまった。
オオ、なんとカルガモのヒナの行列だあ!!
黄色に栗毛のしましまのある、あのカルガモの赤ちゃんが5羽、7羽いや10羽あまりよちよちと 侵入者の方向を気にして親が沼地の中に引き連れていくのが見える。
そうなんだ、ここはオーストラリアの田舎なんだ。 まて!まてまてまてー! こんなことでおったまげていては、テリー親父の思うツボ。
頭を冷やせあたまを!! そう自分に言い聞かせて心を落ち着かせなくてならない。
こういうのが、初心な日本人には毒だ。"ここに住みたい病"にかかってしまう。 ペテン師に引っかかるなよ!! へその周りに力を入れる。
案の定、ボロ家だった。 なんと、玄関がないではないか!
ノックすると、ガラガラっと引き戸を開けて、テリーが顔を出した。 赤ら顔の中年男、典型的なオージースタイルである。半ズボンにたらたらの半そでシャツのいでたちだ。 お決まりのオージー挨拶、引き続いて奥さん? オイ、なんとこの奥さんがスーツを着ているではないか!!どうなってるのこのご家庭??
といった塩梅でで、一世一代の交渉ごとが始まったてわけだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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