イルカと泳いだ日
長いゴールデンウィークから帰ってきて、ようやくコンピュータの前に座る。実家はまったくデジタル化されていないので、調べものなど不便である。しかもインターネットカフェなどは入会金や身分証明などが必要なので旅先で使う気になれない。というわけで事前に調べていたドルフィン・センターへと行ってきた。イルカに触ったことはあったけれど、一緒に泳ぐのは初めてだ。映画「グラン・ブルー」を見て以来、一度イルカちゃんと戯れてみたいと思っていた。けれど普段から水に触れているわけでもないし、シュノーケリングも初めてだ。 何のとまどいもなくプールに飛び込んだものの、急激に体温が下がるので自動的に息が荒くなる。慣れないシュノーケルから呼吸を試みるが、全身から緊急信号が出されている。ちょっとしたパニックだ。それでも何とかイルカに近づこうと向かっていくが、ウェットスーツがきつくて思うように動けない。スーツの浮力で溺れたりはしないのだが、とても息苦しい。イルカはというと、そんな溺れかけの僕を遠巻きに眺めている。10分もするとようやく水にも慣れ、少し動けるようになってきた。プールサイドにいるインストラクターの指示を頼りにイルカに接近を試みる。イルカちゃんたちは近づいては来るものの、いざ手を伸ばすとするりと身をかわして、いっこうに触らせてはくれない。それでも僕を中心に円を描くように泳いだりするので、何だかじらされているような、からかわれているような気分だ。まぁ人間でも初対面で触ったりすることはまずないのだから、厚かましいと言えば厚かましい。キャバクラのおねぇちゃんでもそうは簡単に触らせてはくれまい。 見かねたインストラクターたちが餌でプールサイドにおびきよせる。それに向かってゆっくりと近づくのだが、やはりするりと身をかわされてしまう。見れば水中でもらった餌を吐き出しては突っつきして遊んでいるので、プールにはイワシのすり身が散らばっている。そうこうしているうちに、ようやくファースト・タッチに成功。そして背びれにつかまって泳ごうとするのだが、イルカは水中深くに潜ってしまうので、僕はついていけない。それでもしばらくすると背びれに捕まって引っぱってくれるようになる。これがかなりの迫力とパワーだ。尾っぽに当たるとひとたまりも無いので気をつけなくてはならない。懸命にしがみつきながらプールを3周ほどする。その後、インストラクターがプールにおもちゃを投げ込む。チューブの両端に発泡ウレタンの浮きがついたもので、これでイルカと引っぱりあいをするのだ。これがイルカちゃんのお気に入りで、浮きの片方をくわえると猛然と引っぱっていってくれるのだ。そしてまた水中に潜ったり、水上で引っぱられたりして、とてもおもしろかった。ここでようやくタイムアップ。イルカちゃんはノリノリになっているが、こちらは体力の限界。40分も水中にいるとかなりの体温が奪われる。一緒に泳いだ彼女はすでにプールサイドに上がっている。見れば唇が紫になって震えている。早々に上がって熱いシャワーを浴びてようやくほっとする。 イルカと泳ぐというのは、想像していたのとは違っていた。とても「グラン・ブルー」のような甘美な世界じゃなかった。きっとイルカと泳ぐ以前の問題で、水にもっと慣れている必要があったのだろう。こちらは息継ぎに必死で、楽しむ余裕は少ししかなかった。まずはシュノーケリングの練習からしなくては。彼女はイワシのすり身とイルカのウ○チが混ざる海水をかなり飲んでしまったそうだ。後でお腹を壊すこともなかったから平気だとは思うけど…大丈夫?