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私は穴を抜け、扉の前に立った。それは先ほどの扉と同様に、不気味に光っていた。扉にはこう書かれていた。「The dawn」私は扉を開けた。先ほどと同じような部屋。正面には1枚の絵が掛けてある。そこには、凄惨な光景がリアルに描かれていた。それは互いに傷つけあう人々。絵の中の人間は、ただ目前の敵を倒すことしか考えていないようだった。そこには正義や悪など無かった。それぞれの人間にとって、自分が正義で周りが悪なのだ。人間は、自分にとって害となる人物を"敵"として排除しているのだ。絵の下には先ほどと同じように文字が彫られている。『nightmare』その下に彫られていた日付は「今日・・・」すると突然驚くべきことが起きた。絵の中の人間が動き出したのだ。剣を振る人。血を吹き倒れる人。それはまるで窓から見ているように鮮明に映し出されていた。人は、自分のことばかり考えて、相手のことを考えようとしない。他人のことを考えもしないで、それが善か悪かを判断してしまうのだ。「これが、悪夢のはじまり・・・」私がそうつぶやくと、突然背後から声が聞こえた。そう、あの少年の声だ。私はとっさに扉を開けた。少し離れた場所に少年が立っているのが見えた。少年の背後には扉があった。彼は小さな声でこう言った。「未来を」それは私に届くはずもない小さな声だったが、不思議と私は聞き取ることが出来た。まるで心に直接語りかけているようだった。そして彼は振り返り、扉の方を向いた。「ま、待って・・・!」私は走った。しかし彼は扉をすり抜けて、向こう側へ行ってしまった。私は追いかけるように扉を開いた。扉を開いた先にあったものは、私の家の玄関であった。驚いて振り向くと、そこには私が今まで居た暗闇の世界など無く、私の家の外の風景があるだけであった。私は辺りを見渡した。しかしそこには少年の姿は無かった。まるで夢から醒めたような心地だ。しかし私の頭の中には、少年の小さな声が確かに響いていた。