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2006.06.02
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カテゴリ:世界
「たばこのけむりが蛍光灯の明かりのそばを通過するとき、あざやかな青色にかわるのを、知っているかね」おれは言った。「ついでにいえば、癌で死んだひとの遺体を焼くと黄色い煙が出るんだぜ」とヤツが付け足す。

ここしばらく山を留守にした。もどってみれば、緑はいっそう濃くなり、いつのまにかダイスケが消えていた。まあ、それもいいか、と寝床に横になりながらタバコを吹かす。リリリンとそのときベルが鳴った。隣人が酒の相手をさがして掛けてきたにちがいなく、サンダルを突っかけて出向いた。やくざなおとこだが、約束を守るおとこだ。都会の連中と違う。口先でものを言わない。よけいな詮索もお互いにしない。そういう暗黙の了解事項で、まもなく三年のつき合いになる。

「ところでさあ、そろそろだなあ」とヤツがとつぜん話題を変えた。生ビールの泡が古い板の上にこぼれて、しゅわっと微かな音をたてる。
「なんだ、そろそろって?」
「七の月が来るわけです」マシンガンなみの威力を持つカラシニコフの銃尻を右手で撫でながら、ヤツが言う。「ノストラダムスですよ、ほら、あの預言の運命の時が、まもなくやってくる」
「ああ、例の1999年七の月のアレかい。あれは、もうおわったじゃあないか」おれは預言詩の一節を思い起こす。“空から恐怖の大王が舞い降りてアンゴルモアの大王を甦らせる/その前後マルスが幸福に世界を支配するだろう…”「預言詩第10巻72番だ」
「それがさ、ノストラダムス時代の暦では、1999はじつは今年つまり2006年だそうだ」
ヤツの趣味はサバイバル全般に及ぶ。なるほど、未来予知もそうか。おれはタバコにまた火を付ける。青いけむりが夕暮れの薄闇にながれる。
「エチオピアが同じ暦を使っている。連中のパスポートには今年は1999年と印字されているよ」
「で、何が言いたい?」とおれ。
「いまの世界情勢みてみろや、センセ。イランに米国はいつ攻め込むかしれない、北朝鮮もやばい。おれはちかじかだとおもっているよ」
「世界戦争か、それとも地球の破滅かい」
「米国あたりじゃ銃の規制が厳しくなってきた。フルオートのマシンガンになるカラシニコフが、あの国じゃいまや一丁五百万円だってさ!」
「ほんとか。そりゃあすごい」おれは素直におどろいた。
「マニアの、闇で取引されている値段がね。つまりだ、正規ルートではもうほとんど手に入らなくなってきた。米国民から銃を取りあげる意図は、あきらかじゃあないか」

どっかーん。裏山から轟音が今夜も聞こえる。イラクに派遣される精鋭部隊の野戦実弾訓練の音だ。うーん、「七の月」か。わくわくしてしまうな。ふたりして、「世界の終わり」に乾杯して別れた。





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Last updated  2006.06.03 01:26:35
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