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カテゴリ:日本の味
もう7,8年ほど前、私の実家に帰省したときのことだったか。イタリアに帰る前日の夜、夕食をとった後、相方が「飲みに行きたい」と言うので車で出かけた。実家はかなり郊外なので徒歩圏内に飲食店はない。 私は正直言って地元に友人がいないので、近所に飲みに行ったことなど一度もない。どこに行ったらいいかさっぱり分からないのでとりあえず飲食店が数件集まってて駐車場が留めやすいところに行ってみた。そこには大きい居酒屋チェーンと、お好み焼き(兼飲み屋)と、すし屋(兼飲み屋)が地上にあり、上階はスナックとかラウンジとかいう名前のついた怪しげな店が構えている。そのうち居酒屋とお好み焼きは行ったことがあって、ぱっとしない。飲みにいくといってもスナックとかは自分から入ったことないので入る勇気がない。残ったすし屋をそとからよく観察してみるとどうもすし屋というより飲み屋という感じだったので、入ってみた。 中はやっぱりローカルな飲み屋で、常連さん2人と寿司職人(というより飲み屋の親父的)が仲良く飲んでいた。 そこで夫はビールを飲んで私はウーロン茶を飲んだ。ショーケース内のネタはたいしたものはなく、すし以外にもちょこっとおかず系のものが並んでいたのでそういうものをちょこっとたのみながら。そもそも家で食べてきたわけだし。 入る前はちょっと不安だったがその店は大正解で、お客さんも親父さんも一見客を疎外する雰囲気はなかった。しばらくは私たちは私たちで飲んでいたのだが、突然だったかちょっと会話を始めてだったか経緯はよく覚えていないが、自家製のどぶろくを味見させてくれた。 言っておくが日本では自分でアルコール発酵させて作る酒類は、酒税法上禁止されている。(ちなみにイタリアでは家庭で作る発酵酒は合法、蒸留酒は違法)。酒税を払えばいいのかという話ではなく、酒を造る免許がいるらしい。そしてその免許は個人ではなく酒造業者にしかくれない。 自分で作って自分で飲むのもダメ。昔から米と麹で作られてきたどぶろくが禁止されているのはとてもおかしな話だ。どぶろくは発酵中の生酒なので取り扱いが難しく酒屋でも売っていない。これではどぶろくという伝統食はなくてもいいということになる。 ただし作る家庭では構わず(か、違法と知らずに)作っているとは思う。しかし確実にどぶろくは日本から消えつつある。 このあまりな法制はいくらなんでもひどいからか、最近どぶろく特区というものができて、この特区内の民宿や旅館で手作りのどぶろくを販売してもいいことになった。 しかしこの話はどぶろく特区が始まる前の話だし、後だとしても観光地ではないのでどぶろく特区に指定される可能性のあるような地区ではないし、例えどぶろく特区であっても観光業ではないので許可されることはないだろう。 つまり、完全に、違法!? しかし親父さんはこそこそするわけでもなく堂々と私たち一見客に分けてくれた。しかも店の一角に置いた桶からお玉で。私もそのときは違法だと知らなかったので普通に思ってたんだけど。(まあそれでつかまる人もいないのでしょう。イタリアにもよくあるけど、あまり意味のない法律?) それまで夫は何度か日本酒を試して、「甘い」と言ってあまり気に入らなかったので、いかにも甘そうなその酒を気に入ると思わなかったのだが、一口飲んで夫は非常に気に入った。 私も一口味見したが、それはどろりとした見かけによらず爽やかで、わずかにほの甘く、カルピスのような乳酸菌の風味もして、そのくせしっかりアルコールも入っている不思議な飲み物だった。漉さずにそのままなのでご飯粒も入っていてさらに不思議な飲み物になっていたけど。 しかもどぶろくでの酔い方は非常に特徴があるらしい。夫「ハイになって非常に気分がいい」親父さん「ほわーっとする感じの酔いやろ?」と、非常にご機嫌だった。 1月7日だったので七草粥もご馳走になった。残念ながら夫は日本食の中でお粥だけは苦手なので、無理やりという感じで完食していたが。それからほかのお客さんとも雑談をした。皆さんなかなかの食通っぽい印象を受けた。 最後にペットボトルにどぶろくのお土産までもらった。そしてお土産分と七草粥は勘定に入ってなかったのだ。 しかも「米麹とご飯と水でできるよ」とレシピまで教えてもらったのだ。 夫はありえないほどの親切に非常に感銘を受けて、あとになっても何度もこのときのことを話す。とくに親父さんがご機嫌に酔って、歯にどぶろくのご飯粒をつけたまましゃべるのでご飯粒が飛ぶのが面白かったらしい。一回の旅行(帰省?)で、あるかないかの貴重な思い出だ。 残念ながら次の帰省で行ってみたら、違うお店になっていて、親父さんの姿もなかった。 それで米麹を持って帰って、イタリアの日本米とブリタの水で挑戦してみたが、なかなかあのすばらしい味にちかづけなかった。パンを作る生酵母や、乾燥ビール酵母を入れると、すごく酵母臭くなる。パンのにおいなのだ。それで酵母をいれずに自然発酵させると、一応酵母発酵はしているが、さらに匂いがきつくてシンナーのようなにおいになった。他にもぶどうの皮を入れたり、ワインを入れたりしたけどだめ。 結局同じ酵母を使っても、そこそこのものができたときもあったが、ほとんどはおいしくなかったので、3年ほど前から作らなくなった。 ちなみに米麹を持って買えると米の部分のウェイトが無駄、米はこっちでもあるし、と思って、種麹を持って帰って米麹を作ってみたことがあったが、手間がかかって面倒だったので2度としていない。 で、食料棚を整理していたら、少し前に賞味期限の切れた米麹が3袋出てきたので、ほかにこれといって使い道もないし、もう一度挑戦してみた。 作り方はネットを調べると沢山出てくる。私は 米麹200g 炊いたご飯3合 水1.2L 酵母 スプーンの先っちょだけ これを消毒した容器に入れて、消毒済みのお玉を入れっぱなしで7日~10日ほど置く。今回は次の日にケフィアを一滴入れてみた。 ↑容器に入れたところ。泡が出てくるのでこんなぎりぎりはよくない。 ↑1日目 ↑2日目。だんだんおかゆみたいになる。 ↑5日目 ↑7~10日でできあがり。米は形こそ見えるものの触るとつぶれるバーチャル米になっている。 ↑ボトルへ。 毎日1回混ぜて、味見してもう充分アルコールがあると思ったら、漉してボトルに入れて冷蔵庫におく。そのまま飲むと微炭酸だが、1.5Lのペットボトルに入れてふたをして1日置くとガスが溶け込んでしゅわーっと炭酸飲料になり、爽やかだ。ただし発酵は冷蔵庫でも進むので一日おきにガス抜きしないと爆発が心配だ。 漉すときは茶漉しみたいな網状のザルで漉すが、最後にぎゅーぎゅーお玉を押し付けて絞るのが一番大変な作業だろうか。おやっさんみたいに漉さずに飲んでもいいけど、どっちかって言うと私らはないほうがいいかな。そうやってできた酒かす、私らは全然好きじゃないので使い道がない・・・。 これが今回はなかなかおいしくできた。温度などの条件によって酵母菌も変化するんだろうか? いままでで一番おいしくて、過去にまずい酒ができたときは見向きもしなかった夫が、あっという間に飲んでしまって「やっぱりいいどぶろくは酔いが違う」とご機嫌になっていた。 2袋目の米麹はまた後で書くが他の事に使った。 3袋めはまたどぶろくにした。前のときの酒かすをとっておいてそれを酵母代わりに種菌にしたら、やはりそっくりのうまい酒ができた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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