カテゴリ:短編小説
「そういえばウォードたんてあの町でたんだっけ。今どこいるの?」
またぞろセイラがどっかから仕入れてきたレアなんだか怪しいんだか理解に苦しむモノ色々を整理している最中に。 店の奥から出てきたセイラが、ふと思い出したようにそう言った。 「あー、まだ言ってなかったっけ。今はミュルスってとこ」 引き出しの中に写真いれっぱなしだから、といって僕が仕入れ品の整理で出たごみをだしに奥に行くのと、もはや人外といっても差し支えないほどの叫び声が店の方から聞こえて来たのはほぼ同時だった。 「%&#○×????!!!!」 「@*\\\◆△●◎<●●>%+」 「:@:@!?!?」 「セイラ……せめて人間の言葉、話そうよ……」 ごみを捨てて戻ってくると、当然のごとくもの凄い勢いで問い詰められた。 ……が。興奮しすぎているのか、セイラの唇から出て来ることばはまったく意味をなしていないどころか、この星の言葉なのかすら怪しい。 宇宙人の言葉なんて翻訳できないぞっ、僕。 セイラはとりあえず手近にあった朝食の飲みかけオレンジジュースを一気にあおると、 深呼吸を何度かして、改めて口を開いた。 「こここっ、ここここっこここここ」 「……。『琥珀、これってこれって?!』 こんどはいきなりニワトリと化したセイラのセリフを翻訳したり。 「なんっ―――う……が―――んのっ?!!!」 「『何でウォードたんが執事さんコスでウエイターさんやってるのっっっ?!?!』」 僕が翻訳したセリフを言うたびに、こくこくこくこくと、超高速な相づちを打つ。 ……どっかの首振り人形みたいだ。 「ええとね」 僕はかいつまんでそれまでの経緯をセイラに話した。 街道を歩いてると空から落っこちてきたライルさんのこと、 ライルさんが経営してる宿屋のこと、 彼の作っている飛行機械のためにしばらくバイトすることになったこと。 奥さん手製の、執事仕様ウエイターさんコスのことも含めて。 ……話が進むたびに、セイラの目がらんらんぎらぎらしてくるのがちょっと怖いよう…… 「……ってか、クールで渋くてイケメンなウエイターさんいるならそりゃ人気になるわああああああ♪♪んな宿屋なら毎日でも通うわよあたしっ?!うっわーいきてえ~いきてえ~ちゅーか行く。今行く。すぐ行く。これからいってくる~~~~っっっっ♪♪」 「え?!お店どうすんの?!明けたばっかりなのに?!」 もうさっそくいそいそとお店を閉め始めているし。 まだお日様は、天の真ん中にくるには程遠い位置にある。 びっくりしてあわあわいってる僕に、セイラはこれ以上ないほどの笑顔をむけ、 「え?それはだってお休みしないと。店じまい店じまい♪本日の営業は終了いたしましたあ~♪ほーたーるのーひーかーありまどのゆぅき~っと♪うふふふふ~」 奇妙な歌をうたいつつ、店の鎧戸をがっしゃん、と閉めた。 ……いつものこととはいえ。 今回は特に、ネジの一本どころか、まとめて数十本ぐらい抜けて転がっているような、気がする。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
May 12, 2005 12:34:58 AM
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