テーマ:☆詩を書きましょう☆(8463)
カテゴリ:街にたたずむ人々
8年前に日本を離れたリンダ=リンダ
11歳年上のソプラノ歌手。 突然帰国した彼女は、3倍くらいに太っていた。 顔も言葉もすっかり日本人じゃなかった。 心と体の傷から流れたおびただしい量の血が、 付着した僕の部屋を見て リンダ=リンダは叫んだ。 「あなた、いったい何があったの?」 僕は、毎日自殺未遂を繰り返している事を話した。 「あなた、そんなに、その子が好きなら、 格好つけなさいよ。 誰よりもプライドの高いあなたなら、 その子の幸せを祈って、黙って去りなさい。 そして、その子の最高の思い出に なってあげればいいじゃない。」 あまりにもシンプルな助言は 複雑な事を考えすぎて、 何も考えられなくなった僕の脳に響いた。 「そうだね。すごくわかりやすい。わかった。そうする。」 僕は子供のように素直になった。 リンダ=リンダは日本の音楽事情にうとかったので、 ブルハもヒロトも知らない。 だけど、リンダリンダを聞かせてあげたら、 即席で、ものすごいハイレベルなハモりを入れてきた。 ハイレベルすぎて、僕はいっしょに歌えなかったけど ブロードウェイの劇場で、最前列にいるみたいだった。 歌が終わってリンダ=リンダが言った。 「さっきの言葉ね。8年前、夫に捨てられて泣いている私に まだ少年だったあなたが言ってくれた言葉なんだよ? だから私は泣くのをやめて、日本を離れたんだよ。思い出した?」 そんな事があった事はまったく思い出せなかった。 だけど、僕がプライドだけは誰よりも高いという事だけは思い出した。 とりあえず、涙も血も止まったと思う (1986) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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