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カテゴリ:魔法少女♪奈里佳
「だから誤解なんです。僕は痴漢なんかしていません」
もう何度目だろうか。克哉は自分の無罪を訴えるべく、そう主張していた。 「嘘です。この子、可愛い顔をしているくせに股間を膨らませて私のお尻に押し付けながらグリグリ動かしてきたり、手で撫で回してきたりしたんですよ!!」 克哉を痴漢呼ばわりした女性も普段はおとなしい人なのかもしれないが、切れてしまっただろう。100年の恋も冷めるような形相だ。 「とまあ被害者の女性はこう言ってるわけだが、克哉君だっけ。君は先ほどから『誤解です』と言うばかりなんだが、もう少し詳しく教えてくれないかな。言いたくないのは分かるけど、じつはやってしまったんだろ。痴漢をさ」 青年から中年にさしかかっている年齢の警官は、興奮しまくっている女性の顔を横目にしつつ克哉に問いかけてきた。 「やってません。手がお姉さんのお尻の所で動いたのは、この封筒を落としそうになったからなんです」 克哉は目の前に置かれた茶封筒を指さす。 (大変なことになっちゃいましたね) どんなに反論しても、克哉が痴漢行為を働いたに違いないと決めつけている雰囲気の警官と女性を前にしてほとほと困りきっているところに、家でくつろいでいるクルルから、のんびりとした声が頭の中に伝わってきた。 (あっ、クルル、助けて。痴漢に間違われちゃってるんだよ!) 克哉は事のなりゆきを圧縮イメージにすると、クルルに向けて送信した。すでに変身していない状態の克哉であっても、それぐらいのことはできるようにはなっているのだ。 (克哉君、状況把握が間違っていますよ。膨らませた股間をそのお姉さんのお尻に押し付けながらぐりぐりと動かしたり、お尻を撫で回したのは動かしようがない事実です) どうやらクルルは克哉が今置かれている状況をより一層楽しむためにわざわざ話し掛けてきたようで、克哉を助けるためではないらしい。 「君、黙りこんでいないで、ちゃんと本当のことを話そうよ。未成年でもあるし反省して自白するなら今回だけは厳重注意だけで済ませてもいいんだよ」 一見すると優しそうな表情の裏側に獲物を前にして舌なめずりするような爬虫類の顔を覗かせながら警官はささやく。どうでもいいが、吐く息が臭い。 「だからやってません。ただ……」 また改めて反論しようとする克哉だったが、突然その言葉を飲み込んだ。クルルに続いて今度は都合良く覚醒した奈里佳2号が克哉に話し掛けてきたのだ。 (まったくもう、ドンくさいわねえ。痴漢に間違われるなんて何をやってるのよ) 目覚めたばかりだが、そこは克哉というパーソナリティの別パターン人格である同一人物。ちゃんと状況を把握しているようだ。 (ああ、良かった。奈里佳2号、なんとか魔法で助けてよ) 明らかに安堵の雰囲気を漂わせる克哉。 (また2号って言う~ッ! でもまあいいわ。状況も切迫しているみたいだし何とかしちゃいましょう。で、どんなやり方でも良いのよね? じゃあ、例によって行くわよ!) 2号と呼ばれることに反発する奈里佳2号。ちなみにいわゆる【1号】は、今の克哉の心が奈里佳という人格へと【変心】した時の状態を言い、その時は克哉が変心した奈里佳(1号)と、克哉の心のサブシステムとしての奈里佳2号といった2つの精神が並列同居することになる。 奈里佳と奈里佳2号は、同じだが違うし、違うけど同じという関係なのだ。 「ただ……、何なんだね? 黙ってちゃ分からないだろう」 丁寧な口調の裏に、厳しさの刃が見え隠れする。その警官の前に坐っている克哉はというと、急に恥ずかしげな表情を浮かべつつ何やら小刻みにくねくねと身もだえしている。 「おい、どうしたんだ。大丈夫か?」 まさかそんなことは無いとは思うのだが、もしかしてもしかすると緊張のあまり失禁してしまったのではないかと思った警官は、克哉の横に回るとその股間に目を向けて確認する。 大丈夫、漏らされてはいない。と、ちょっと安心した警官だったが、なぜか克哉の股間に妙な違和感を覚えたのだった。しかしそれが何に由来するものだったのかは分からなかった。 「ちょっと、おまわりさん。その子が痴漢だっていうのは間違いないんだし、取り調べか手続きだか何だか知らないけどさっさと終わらせてくれないかしら。時間がなくて急いでいるんですけど」 本当にイライラし始めたのだろう。女性は時計を見ながら、丁寧だが冷たい口調で警官を詰問する。もうすぐお目当てのコンサートが始まりそうなのだろう。 「ああ、すみませんね。もうすぐ終わりますから」 触らぬ神に祟りなし。警官は女性に向かって軽く頭を下げると、克哉に向き直った。しかし克哉は警官を無視して、女性の顔を見つめている。先ほどから浮かべている恥ずかしそうな表情はそのままだが、どこか開き直ったかのような顔でもある。そして克哉は静かに話し始めた。 「さっきからお姉さんは僕が痴漢をしたと断定していますけど、どうしてそう思うんですか? 満員電車の中では、お互いに身体や手が触れるなんてことは当たり前だと思うんですけど」 改めて誤解による冤罪であることを主張する。しかしそれを聞いた女性のほうはというと、さらに怒りをヒートアップさせたようだ。すでにその顔は般若のようである。 「ちょっと! いまさら何を言っているのよ! 身体とか手が触れるだけなら確かに当たり前かもしれないけど、あなたはその……、アソコを固く膨らませて私のお尻に押し付けていたじゃないの!!」 さすがに嫌悪感が先に立って、『ちんちん』を膨らませていたとは言いたくはなかったのだろう。しかし女性が言いたかったことを、そこにいるすべての者が理解することができた。そしてその言葉を聞いた克哉は場違いな笑顔をにこりと浮かべたのだった。 「おまわりさん、聞きましたか。お姉さんに痴漢をした人はアソコを固く膨らませてお尻に押し付けていたそうですよ。それで間違いないですよね」 警官と女性の顔を交互に見ながら克哉が確認をする。 「だからその、それが君なんだろ。克哉君」 克哉が何を意図してそのようなことを言い出したのか理解できない様子の警官は、ちょっとイライラとし始めた。トントンと指でテーブルを叩いている。 「いいえ違います。少なくとも僕はアソコを固く膨らませてお姉さんのお尻に押し付けたりはしてません。というかできないですよ。無理なんです」 そこまで言うと克哉は立ち上がり、ズボンのベルトを外した。そしてそのままゆっくりとズボンを降ろし始めた。徐々に現れてきたのは青と白のストライプなショーツだった。 「恥ずかしいから本当は言いたくなかったんですけど、……しょうがないですね。実は僕、男装趣味の女の子なんです」 学生服のズボンを床までストンと降ろして完全に脱ぎ終わると、そっと横を向き顔を赤らめながら呟く克哉。確かにその股間には、男性にあるはずのものの膨らみが全く感じられなかった。 「え、どういうこと!?」 一瞬の沈黙の後に口を開いた女性は、驚き混乱していた。女顔でかわいらしいとはいえ詰め襟の黒い学生服を着た男子中学生が、実は女の子でしたと聞かされて、『はいそうですか』といく訳がない。しかもその【男子中学生】が痴漢行為を働いていたと思っていたのならなおさらである。 「だから見たとおり女の子なんです。僕がアソコを膨らませてお姉さんのお尻に押しつけたということがあり得ない誤解だってこと、分かってもらえましたか?」 いっぽう克哉の言葉がいまだに頭の芯まで届いていない女性の横では、警官が目のやり場に困っていた。下着だけがガードしている若い女の子の股間を凝視する訳にもいかず、かといって事の真相を理解する為には見ない訳にもいかず、あっちこっちヘト目が泳ぎまくっている。 「君、分かったからちゃんと服を着なさい」 チラリと見ただけであったが克哉の股間が男性のものではあり得ないぺたんとした様子である事を確認した警官は、年甲斐もなくやや顔を赤らめた。 「分かっていただけましたか」 警官の言葉に文字通りほっと胸を撫で下ろしたのだったが、その瞬間、克哉の表情が微妙にこわばった。 (ちょっと、奈里佳2号! 何で胸まで膨らんでいるの!?) 頭の中で克哉は叫ぶ。 (保険、というか、アフターサービスってやつかしら? いいじゃない、外見的にそれほど大きく変わっている訳じゃないんだし) そんじょそこらの女の子よりも女っぽくてかわいらしい克哉のことを半ばからかいながら、克哉の頭の中で奈里佳2号がケラケラと笑っている。 (もう、サービス過剰だよ!) 奈里佳2号にはそう言ったものの、せっかく胸まで女の子になったのならと、多少のいたずら心が芽生えてきた。やはり克哉も奈里佳という精神の母体というか別バージョンではある。 「お姉さんはどうですか。もしもまだ僕が女の子であるということを疑うのなら、ほら、触ってみてください」 改めてズボンを穿き直した克哉は、学生服の上着のボタンを外すと、白いワイシャツの布地を盛り上げている胸の膨らみを女性の前に差しだした。乳首が薄く透けて見えている。そして克哉の手は驚きがまだ冷めない女性の右手を取ると、その返事を待たずに自分の胸に押し当てたのだった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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