|
カテゴリ:読書
ここのところ障がい者に関する本を何冊か読んでいるのですが、その一冊。
「漂泊と自立 障害者旅行の社会学」、流通経済大学の根橋正一さん井上寛さんの共著。障がい者・高齢者の旅行論で歴史的経緯から説き起こしてあります。 1 前産業期の日本=移動・漂泊する民が多数いた=視覚障害者 当道座が組織される。ゴゼ・見世物・巫女など 戦前までは漂泊という生き方により、日本社会で生きていける可能性があった。 その後の産業社会=漂泊という生き方、激減・消滅 2 前近代的社会=障がい者=困難や屈辱はあったにせよ、社会的役割を持ち自立的に生きる可能性があった。(芸能者・音楽家・見世物のエンタテイナーとして) 3 高度経済成長期以降=農村定住社会の変容=農地改革と55年からの高度成長、工場労働者・新中間層の所得の増加=農業所得より多くなる・ギャップ→農家の兼業化→テレビで情報・車で移動を通じて農家と非農家の混在。 高度成長により大衆的規模での貧困からの脱却。日本の国際的地位向上。高度成長の過程で自由経済競争を実現。経済的価値が政治的価値・社会的文化的価値よりも上位になる→経済的利益第一主義 4 収容型福祉=産業社会の足手まといになる存在は、施設へ収容・隔離という考え方。 障がい者=自立する存在ではなく庇護され、産業労働者の居住地・労働現場から隔離・収容される存在。 地域社会からも排除=施設建設反対=地域エゴイズム ゴミ焼却場などと共に障がい者も排除の対象 「異物吸収型」ではなく「異物嘔吐型」の社会。 5 ヨーロッパの労働観=労働社会の近代化により、無為・余暇は価値を下げ「多忙と勤勉の時代」に文明の価値基準が根本から変化。 障がい者→労働からの排除さらに余暇活動・旅行からも排除。 日本における職業観=「奉仕」→封建時代は君主・主人に 戦中は皇国勤労観 戦後は奉仕の対象を失い各人の私的欲望を満たす手段。 日本の経営=集団主義 会社への忠誠心 効率第一主義→障がい者の排除 以上、私の興味ある箇所を前半部分から飛び々に書きましたが、後半は国内の1949年の身体障害者福祉法からの法整備について、国連の1971年の精神障害者の人権宣言に始まる世界の動向を。1980年代に入ってのフレンドシップトレイン‘ひまわり号’運行についてや旅行情報の充実度。90年代以降の旅行業界の障がい者に対する理解の進捗、宿泊施設のシルバースター登録制度についてなどの現況が、実際の調査に基づいた資料と共に詳述してあります。 もう一つ「自立」については、通常の解釈として「他から援助を受けず独立した経済生活をし障がいがあっても、介助を受けず独立した日常生活を営む事」とし、他に英語‘indipendent living’の訳語の解釈として「自己実現と社会参加を果たそうとする、主体的努力を社会的に位置づけようとする生活概念」とありますが、後者の解釈が私の気分にあっています。 前半部分を主に紹介しましたが、障がい者について勉強になった一冊でした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[読書] カテゴリの最新記事
|