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2009年06月26日
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この本、めずらしく短編集なんだ。

飛鳥時代から奈良時代のいろんな人を主人公にした物語が出てくる。

あの時代、人それぞれ、その出自によってどんな役割の人間であったかなんて事が決めつけられちゃってるってとこがあるでしょ。

系図を見れば、”この人はこういうひとなんだ”って分かったような気がするじゃん。

でも、その人にとっては、なんにも知らない子供時代があり、両親やその親たちと世の中との関係性を知るにつけ、いろんな思いを持ったに違いないんよね。

そんな事をあらためて思い知らされる本だった。


表題作の『裸足の皇女』は山辺皇女の物語。

「山辺皇女」の読み方が良く分からないんよ(^_^;)

永井さんの『裸足の皇女』では「やまのへのひめみこ」

里中満智子さんの『天上の虹』では「やまべのひめみこ」

ウィキペディアでは「やまのべのひめみこ」

僕は『天上の虹』で、ずっと「やまべのひめみこ」と読んでたので、「やまべのひめみこ」以外は気持ち悪いので「やまべのひめみこ」でいこうと思う。

この人は中大兄皇子(天智天皇)と常陸娘(ひたちのいらつめ)の間に生まれた皇女なんだ。

常陸娘というのは蘇我赤兄(そがのあかえ)の娘なんだ。

蘇我赤兄というのは、有馬皇子を陥れ謀反ありとして殺させ、壬申の乱の近江方として捕えられ流されたってので有名なんよね。

だから系図を見れば、蘇我赤兄の孫の山辺皇女って人物のややこしさが分かるんよね。

持統天皇にとっては、天智天皇の娘だから山辺皇女は異母姉妹なんよね。

だけど、有馬皇子の仇の孫で、その仇の孫が、大津皇子の妃ってんだから持統天皇は心穏やかじゃなかっただろうね。

山辺皇女が大津の妃であったから、持統天皇は大津を殺したなんて説も聞いたことがある。

で、そんな、ややこしいけど系図を見れば、なんか分かったような気になる山辺皇女なんだけど、その山辺皇女も好きでこんなややこしい形で生まれてきたわけじゃないんよね。

『裸足の皇女』は琵琶湖のほとりの近江宮で育った子供の頃からの山辺皇女の物語なんだ。

『裸足の皇女』の意味は「日本書紀 巻三十 持統天皇 大津皇子の変」に記してある山辺皇女の最後の姿なんだ↓

妃の山辺皇女は髪を乱し、はだしで走り出て殉死した。

この事は、ひどい悲劇なのに、持統天皇側にたって眺めると”しかたがなかった”みたいに思えてしまう…。

だけど山辺皇女って一人の女性にも当然一つの人生があったんだって当たり前の事を思ったりした。


その次の『殯の庭』って短編は新田部皇子の物語。

新田部皇子という人物がこれまたややこしい人物で父親は大海人皇子(天武天皇)で母親は五百重娘(いおえのいらつめ)。

五百重娘は藤原鎌足の娘なんだけど、この五百重娘は大海人の死後、異母兄の藤原不比等との間に子供を儲けるんよ。

この子供は新田部皇子の異父弟になるわけなんだけど、それが藤原麻呂なんよ。

藤原麻呂は藤原四兄弟の一番下の弟なんだ。

あの一時期朝廷を牛耳ってしまった藤原四兄弟ひとりが、新田部皇子の弟なんよね。

で、ありながら天武天皇の皇子だってんだから、かなりややこしい人物だってことは系図を見れば分かる。

そんな話は古代においては、いくらでもあると思うでしょ。

でもね、一夫多妻制のあの時代、異母兄弟、異母姉妹ってのはいっぱいいあっぱいあるんだけど、異父兄弟姉妹ってのは、あんまりないんよ。

たとえば額田王は天武の妻から天智の妻になったけど、天武とのあいだには十市皇女を生んだけど天智とのあいだには子供を儲けてないもんな。

だから新田部皇子と藤原麻呂って異父兄弟は珍しいのに、その異父が天武と藤原不比等なんだもん、冷静に考えたらちょっとびっくりなんよね。

この物語は五百重娘と天武天皇の子供として、まだちっちゃいときに天武天皇の殯(もがり・天皇の何か月も続くお葬式)に新田部皇子が出席するもようから始まるんだけど、なんにも分からない小さい子供の新田部皇子が、そのややこしさを少しづつ理解していく様が描かれてる。

母、五百重に対する嫌悪感や不比等に対する嫌悪感なんか、とてもよく分かったな。

驚いたのは、長屋王の変にも新田部は深く関わってたんだ!


それとね、新田部皇子は里中満智子さんの『天上の虹』では、滅茶苦茶かっこよく語られてるんだ。

『天上の虹』の最新刊の19巻、20巻で、新田部皇子はかなりのイケメンで登場するんだけど、その振る舞いがまたかっこ良いんよ!

一生結婚しないで、のちに女帝元正天皇になる絶世の美女氷高皇女とのロマンスが描かれてる。

氷高は元明天皇と草壁皇子との娘のわけで、したがって持統天皇の孫なんよね。

だから氷高と結婚出来れば、めっちゃ逆玉なわけで、新田部の母親の五百重も、その夫の藤原不比等も、その妻の県橘三千代も、新田部と氷高をくっつけようと新田部をそそのかすんよ。

新田部はめんどくさいけど、いやいや頑張るんよね。

だけど、始めはいやいやだったけど、新田部は氷高に惹かれて行くんよね。

そりゃぁ、氷高はめちゃ綺麗だし聡明だし、当然っちゃぁ当然なんだけどね。

氷高も新田部に惹かれて、こりゃぁ良いカップルだと思ったのに、新田部は心の葛藤の末に氷高から離れてしまうんだ。

五百重や不比等や三千代の思いが、新田部にはどうしても受け入れられなかったんだ。

この話は、里中さんのフィクションだろうけど氷高も素敵な恋愛を少しでも出来てたって事が嬉しかったな。


まだまだ永井路子さんの本で、目から鱗が取れ続けてる僕んんだよね。

それに、読むたびに、里中さんの漫画で顔をチェックするのも楽しいんだ。

永井さんの本で五百重娘が出て来たときも、すぐにショートヘアーでちょっと小悪魔の入った、わがまま娘ってのがすぐに頭に浮かんで『天上の虹』をチェックしたんだ。

そしたら、あの時代にショートヘアーってのはさすがに間違ってたけど前髪をパッツンにしてたのが、そういうイメージになってたってのが分かったよ。

そんなんでイマジネーションゼロの僕が古代を楽しめるのは、やっぱ里中さんの漫画のおかげだってしみじみ思うよ(^^ゞ





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最終更新日  2009年06月30日 20時02分38秒
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