無職だった俺はいつ急変するか分からない親父に少しでも元気になったり希望が持てるように急いで就職した。
携帯電話の組み立て工場で派遣会社の借り上げ寮のアパートに住むので保証人が必要になった。
保証人は親父になってもらおう。
そう決めて保証人にサインとハンコをしてもらう紙を病院に持っていくと親父は喜んだ。
「やっぱり、そういうのはしっかりした人になってもらわないとな」
病院のベットからもう起き上がることもできなくなってきた親父が言った。
それからは、これからのことで少し話が弾んだが、親父が一生懸命書いた名前と親父が押したハンコの位置は俺が名前を書く欄だった。
なんだか、力を振り絞った字とハンコだ。
文句は言えない。
俺は大切に紙をしまって病院を後にした。
それから、いろいろ親父に世話になることにした。
引越しのときは親父が自慢の車を借りてみた。
カーナビは付けれなかったがテレビが付いてると自慢してた四輪駆動車だ。
そして、 油膜だらけのフロントガラスに年老いた親父の視界を感じながら病院へ通うことにもなった。
俺「親父の車、油膜凄いからとっておいたぞ」
親父「ぉぉ、悪いな」
俺「後は大丈夫だ、いい車だな。金持ちになった気分になる」
親父「あはは、ぶつけるなよ」
実はもう、引越しのときちょっとバンパーを擦っていた。
俺「大丈夫!借りる前より綺麗になってる」
今まで会ってなかった俺が頻繁に会いに来るようになるといろいろ考えるのかもしれない。
親父が入院したのはこれが初めてではなかったらしい。
就職が決まり、仕事が始まると病院へはなかなか行けなくなる。
労働時間も長く久しぶりの労働で病院までは100キロ以上離れた。
俺「これからはあまり来れなくなるけど、時間を見つけてくるね」
親父「ぉぉ、あんまり無理するなよ」
病院の夕ご飯も終わり、そろそろ親父も寝る時間なので俺も帰ることにした。
すると、親父が起き上がって後を付いてこようとする。
親父は病院のベットから降りようとしながら再婚したママさんに「見送る」といった。
俺「また来るから無理すんな」
何も言わないまま病室から廊下へ歩いてくるので歩幅をあわせて一緒に歩いた。
あまり優しさを見せるのも恥ずかしいので少し前を歩いて気が付かなかった。
「あれ?」
振り向くと親父は病院の廊下の車椅子を使おうとしてた。
俺「なんだ言ってくれよ」
親父「これっこれ、んんっ」
自分で車椅子を取り出そうとしていたが引っかかってとれないみたいだ。
俺「ちょっとまって」
別の場所から折りたたまれた車椅子を取り出すと広げようとしたがどうやったらいいかわからない。
親父になにかしてやりたいのに車椅子の広げ方もわからない俺が居た。