テーマ:海外生活(7773)
カテゴリ:ドイツ生活
(昨日のつづき Seit 3.Okt)
マンハイムに着くと、さっそく大阪のM社と連絡を取った。グロトリアン社長との面会についてはすでにグロトリアン側から了承をもらっている。面会の日は2週間後の土曜日と決まった。その間、まめに連絡をとって話の進め方などを決めていった。 ところで、国際電話は通常莫大な通話料金がかかる。海外在住の方はほとんどご存知と思うが、アジアショップなどで売られているテレホンカードを利用すればほぼ国内並みの料金で日本にも電話できる。それでM社とも頻繁に電話できた。 余談であるが、ブレーメンにいた頃はそれを知らず、通常の電話またはコレクトコールで日本にかけていたので膨大な通話料金がかかった。マンハイムのゲーテには日本人が多く、そういった情報はすぐに手に入るのだった。 さて、2週間後・・・ 快速電車1時間ほどでフランクフルトに着く。メッセ会場の入口ゲートでM社社長(以後M社長)と落合い、グロトリアンのブースへと向かった。当時はピアノの展示場は入口から遠く、マイクロバスで行くようになっていた。 マイクロバスの窓から「メッセタワー」と呼ばれる高層の建物が目に移ったとき、ものすごい緊張感に襲われた。浮き足立つ、とはこのことを言うのだと実感できた。当然M社長と何か会話していたはずだが、何も覚えていない。 マイクロバスがピアノの展示場の棟に着き、バスを降りた僕らはエスカレーターで展示場へ登った。 展示場に入るとけたたましいピアノの音が聞こえてきた。みんながめいめい自由に弾くのでそれらが入り混じってとてつもない音響となっていた。 見渡すと、世界各国の色々なメーカーのロゴが見えた。 スタインウェイ、ベーゼンドルファー、ブリュートナー、ペトロフ、ファツィオリ・・・ そして入口からそう遠くないところに目指すグロトリアンのブースがあった。 グロトリアン・ブースでは秘書の女性とピアニストがイベントの打ち合わせをしているところだった。M社長はその秘書に話しかけ、グロトリアンの社長(以後G社長)を呼んでもらっていた。M社長はドイツ語が堪能だった。 奥から背の高い、恰幅の良い男性が現れた。彼がG社長だった。僕の顔を見るとにこやかに手を差し出した。ものすごく大きな手だった。握手すると握りつぶされそうだった。後から知ったことなのだがG社長は僕よりわずか3歳年上なのだ。つまり当時のG社長は今の僕より若かったことになるが貫禄で気圧されそうだった。 「ィ・・・イヒ フロイエ ミヒ ズィー ケネン ツー レルネン」 そう、何とかカタコトで言葉を絞り出した。 「あ~、ドイツ語上手ですね」とG社長が言った。そのような余裕のあるお世辞がまた逆に威圧感を感じる。 そんなカチコチの僕をみてM社長が誘い水を向け、とりあえず面談がスタートした。 面会はこちらサイドからお願いしたものだったが会話はほぼG社長がリードしていた。志望の動機や修行したあと何がしたいかなど、面接の定番とも言える質問を幾つかし、僕はただそれに答えるだけでよかった。 しかし、次の一言に一瞬、耳を疑った。 「それじゃ、来週水曜日がテストになりますから、予定空けて下さい」 その時、僕とM社長は顔を見合わせてしまった。僕らは来年度の交渉をするつもりで来たのだった。僕の代わりにM社長が質問した。 「それは、来年からの修行のためのテストですか」 するとG社長は首を振って、 「いえ、今年の9月からのアウスビルドゥングのためです。うちは応募者が多いので、テストをして合格者2名ほど採用してるんです」 来年のつもりが今年スタートの見込みができた!これはかなりの前進・・・と思ったがテスト、ということは落ちる可能性もある。M社長の質問。 「そのテストは何人受けるんですか」 「中島さんを入れると6人です。今年は応募が多く、数十人いたのですがここまで絞り込みました」 ・・・ということは競争率3倍。広き門とは言えない。でも、もともとふるい落とされていた方に属してたのが、運良くテストを受けさせてもらえるのだ。幸運といわざるを得ない。 「テストの内容は・・・」一番気になる質問を僕がした。しかしG社長によれば特になにか準備する必要はないと言う。もっとも内容を聞いたところで数日間でなにか準備できるわけもないのだが。 面談の後、M社長は他に商談があるとのことで、ここで別れることになった。 「良かったですね。健闘をお祈りしますよ。」 「本当に、本当にありがとうございましたっ。頑張ります!」 そういって僕らは別れて会場を後にした。 まだ依然として険しい道ではあったが、テストを受けられるということだけで喜んでいた。家族に電話しても最初は冗談かと思われたくらいだ。こうしてテストの日を待つことになった。 (つづく) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[ドイツ生活] カテゴリの最新記事
|
|