テーマ:海外生活(7773)
カテゴリ:ドイツ生活
(昨日のつづき ・・・10月3日から)
マンハイムからICEに乗って3時間半でブラウンシュヴァイクに着く。 グロトリアンでのテスト前日、ゲーテでの授業を終えるとクラスのみんなからものすごい声援を背に受けて、ブラウンシュヴァイクに向かった。 そしてテスト当日。 天気はあいにくの雨だった。さいさきが悪い気がしたが、それはテストを受ける6人平等である。ホテルからタクシーでグロトリアンに向かう。ところが運転手は東芝のほうに行こうとした。東芝はグロトリアンと同じGrotrian-Steinweg Str.にある。それで僕が日本人の顔をしているので東芝に用があると思ったのだろう。 グロトリアンに着くと、中からにこやかな顔をした大男が迎えに出てきた。彼はBetriebsleiter、日本語で言えば工場長ということになると思う。「ようこそ、どうぞこちらへ」と、待合室へ案内された。どうやら僕は一番乗りだった。 しばらくすると他の受験生たちがポツリ、ポツリとやってきた。彼らは互いに話し始めた。彼らの話すドイツ語を聞いて唖然とした。 全然わからない。 それまでドイツ語といえばゲーテの中の会話か買い物くらいだった。本物のドイツ人同士の会話というのはこんなにも早いのか。いままで「ドイツ語」と思っていたものは一体なんだったんだろう・・・。一人が気を利かせて話しかけてくれた。彼はベルリン出身で、小さい頃からピアノを習っていて音楽には相当興味があるという。そしてだんだん彼らがどんな経歴を背負ってきたかわかってきた。大学で化学を専攻した者、教会の合唱隊で歌っている者、もうすでに5社テストを受けてこれが6社目だと言う者・・・色々だった。考えれば考えるほど僕が彼らを出し抜いて採用されるとは思えない。だがここまで来た以上やるよりほかあるまい。 やがて時間が来て僕ら6人はコンサートルームへ通された。そこで工場長による簡単なオリエンテーションのあと、会社のイメージビデオらしきものが上映された。またこのドイツ語が早い。これが理解力のテストだったら間違いなく落とされていただろう。 そして工場内に入り、いよいよテスト開始となった。 初めは木工のテスト。 木片とのこぎりとかんなを手渡され、直角のできるだけ平らな面を作るのが課題だった。洋式ののこぎり、かんなを使うのは初めてだったが使い方はちゃんと教えてくれた。とりあえず良くできたんじゃないかと思った。 次はハンマー付けのテスト。 ハンマーをピアノアクションに接着する前にある加工をするのだが、その部分が課題となった。一応これもやったことはあった。 以上の2つは出来具合よりも、センスを見極めるという感じがした。他の人がどうだったかわからないが、とりあえず自分のやってみた感触は悪くない。 ここで昼休み。昼休みが終わるとみな会議室に移動した。ここで工場長の説明があった。 「ごくろうさま。では、これからみなさんピアノを弾いていただきます」 なにーーー!!ピアノ弾く試験があるなら初めから言ってくれ、と言う感じだった。 「一人ずつレッスンルームへ行って弾いてもらいますが、では、Herr Nakajimaからどうぞ」 ・・・何で僕がトップバッターなんだ、と思いつつレッスンルームへ。 中には30代中頃の女性のピアノ教師がいた。 「あら、あなたがHerr Nakajimaね。ひとり日本人がいるって聞いたからすぐわかったわ」 ずいぶん明るい感じな上に好日家のようだ。あとで聞いた話では彼女がハワイにいた頃の一番の親友が日本人だったそうである。 「それじゃ、何か好きな曲弾いてください」 ・・・好きな曲。というか、暗譜で弾ける曲。ショパンの幻想即興曲なら何とか最後まで弾けるか・・・。 だが、中間部の途中で止められた。「うん、うん。よくわかったわ。では、聴音テストをしましょう」 ええっ・・・!僕には絶対音感がない。そのことを先生に伝えようとしたが「絶対音感」に相当するドイツ語が出てこない。 そうしてる間に先生は勝手に始めてしまった。最初は単音で白鍵。ここまでは何とかなった。 だが、つぎに和音で鳴らし、黒鍵が混ざるともうお手上げ。ここでピアノのテストは終了。 会議室に入ると、「ピアノ、良かったよ。」と皆、言ってくれた。「ど・・・どうも」と言って僕も席に着いた。 弾く方はなんとかなったが聴音のほうはボロボロだった。微妙・・・と思った矢先、次のピアノの演奏が聞こえてきた。 ベートーヴェンのテンペスト。しかもうまい。その次の人はバッハ(曲目忘却・・・)だった。どう考えても両方僕より上手かった。後の人はまあ普通・・・。 ピアノのテストが終わると、工場長が紙を数枚配った。 「それでは今日のことやピアノのことについて何でも自由に作文してください」 作文って、、、そんなの僕には不利に決まってる・・・とか思っている間にみんなどんどん書き進める。あっという間に1枚、2枚・・・。中には紙が足りなくなって追加を頼む人までいた。僕はそんな周りの奮闘ぶりを横目で見ながら泣く泣く書き進めることにした。マンハイムに来る前、M社長と打ち合わせておいた面接用のセリフを思い出してそれを書いていった。それでも紙半分にも満たなかった。 提出時間が来て、みんなの作文用紙の束に混ざって1枚だけの僕の作文も集められた。 しばらくすると工場長と秘書のLさんが会議室に入ってきて終礼をした。 「今日は本当にごくろうさまです。今日テストをしてみて皆さんが本当に優秀であることがわかりました。私は本当はみなさん全員にわが社に来ていただきたい。とてもみなさんが気に入ってます。しかし残念ながら全員を採用することはできません。今日の結果については後日、郵送でお知らせします」 その後、僕は秘書のLさんからもう一度採用通知の段取りなどを聞いて、グロトリアンを後にした。駅まで受験生はみな一緒に帰った。みな今日の感触などをお互い話し合った。一方、僕が日本でやっていたことにも興味を持って聞く人もいた。 とりあえずやり終えたという安堵感はあった。自信はあるようなないような・・・とにかくあとは本当に通知を待つだけとなった。 (つづく) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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