テーマ:楽器について♪(3648)
カテゴリ:ピアノ雑感
singent(ズィンゲント)に続いてrund, vollとbrillantと言う言葉を掘り下げていきたいと思う。
オーディオの場合ではヴォリュームつまみとトーンつまみは独立しており、どちらかをいじってももう片方が影響を受けるということはない。 だがピアノの場合はそういうわけにはいかない。ハンマーフェルトに針を刺して柔らかくすれば音色はもちろん変化するが、同時に音量もそれに影響されてしまう。 rund, voll(ルント、フォル)と指示された場合、音色は柔らかくして欲しいが、音量は落とさないでくれという、なんともワガママな願いである。 だがこれは理に適ったことでもある。ピアノの音色の明るさは音色に含まれている倍音で決定し、ハンマーが硬いほど高い倍音がよく出てきて、明るい、硬い音になる。しかし、打弦のエネルギーが高次倍音に分散されるため、1倍音、つまり基音の振動が犠牲になっているとも言える。そこで、ハンマーフェルトに弾力を与え、基音をむだなく振動させることにより、やわらかく、かつパワーのある音色が生まれるのだ。 とは言え、この物理的な成り行きを人間の五感を使って確認するのはほぼ不可能と言って良いと思う。やはりここは耳を使い、音を聞いて判断するしかない。僕はrund,vollの時は45鍵目、すなわちf1の音を規準としている。この音はシューマンのトロイメライの最初のC~F~~~の部分にあたる音だがこの音が柔らかくも、まだメロディーとして生きる程度を目安にしている。これを周りに広げる。8月29日の日記にこの方法はすでに書いたが、僕の場合はこうすることでうまくいっている。 この一点を超えて柔らかくしすぎると、音はパワーを失い、死んだような音になる。この状態をmatt(マット、弱い、こもった)と表現する。したがってハンマーフェルトに針を入れて柔らかくしていく過程ではrundまでを目標とし、行き過ぎてmattとならないよう注意する必要がある。いったんmattになったハンマーを生き返らせるのはかなり骨が折れる。 brillantは言うまでもなくブリリアントな、明るい音色である。時にhell(明るい)という指示が出ることもあるが、僕はほとんど同義語とみなして仕事している。しかし明るくなっても硬くなってはいけない。硬くしすぎた場合、steinhart(シュタインハート、石のように硬い)と言って嫌われるのである。昨日のsingendの場合と共通するが、ハンマーを硬くしていってもある点からパワーは増加しなくなる。それでもやみくもに硬くしようとすればklopfenの度合いが増すばかりである。その場合はハンマー以外の原因、例えば弦の状態、ハンマーが3本の弦に同時に接触するかなどを改めてチェックする必要がある。 brillantの難しさは音の粒の揃えにくさにあると思う。音を明るくしてしまうと、各弦、各ハンマーの性質やくせが明るみに出やすく、音の硬さや明るさを揃えてもバラつき感が完全になくすのが難しい。 一方、rundは粒そろいがきれいになり、比較的繊細な音と言える。ちなみに日本やアメリカ向けのものはほとんどrundに近い状態に仕上げられる。僕自身の個人的な好みもrund, vollに近いと思う。 終わりに、これらの言葉をまとめてみたいと思う。
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