テーマ:好きなクラシック(2328)
カテゴリ:ピアノ雑感
先週の土曜日はケルンでマウリツィオ・ポリーニのリサイタルがあり、僕も聴きに行っていた。ポリーニは最近、体調が良くないのが心配ではあった。去年も会場まで出かけたのに中止になったことがあった。会場のケルンフィルハーモニーに着くと、多くの人でごった返していた。この様子では、中止ということはなさそうだ。
この日はノクターンを中心としたオール・ショパンプログラムだった。 曲目は、前半がノクターンOp15の1~3、48の1、2 バラード第3番にスケルツォ第1番。後半がノクターンOp55の1、2と62の1,2で締めくくりがソナタの第2番という具合である。 最近、僕は良い音のバリエーションを自分の脳裏に吸収しておきたいと思っていたところである。そういう意味でこの日はとても良い勉強であった。 しも手から登場したポリーニはやはり体調を崩している様子が感じられ、なんとなく足取りが痛々しい。だが、ノクターンが始まるとポリーニ節ともいうべきものが流れ出し、客席を満足させた。しかし、Op15の3曲が終わって舞台袖に戻ると、なかなか姿をあらわさない。そのうち客席がざわざわしだしたところで、再び登場。前半はこんな繰り返しで、演奏はさすがにしっかりとはしていたものの、痛々しい印象は拭えなかった。 しかしそれは後半では荘厳な印象となっていった。ノクターンと言うとなんとなくサロンミュージックのイメージもあるが、この時はそんな気分で聞けるものではなく、襟元を正さなければならないような気持ちにさせられた。最後に“葬送ソナタ”が待っていたのも心情に影響したのかもしれない。 ところが、そのソナタから流れが変わってきた。何か聴衆を沸かせるような要素が入ってきたのだ。本プログラムが終わって最初のアンコールはいわゆる「雨だれのプレリュード」だが、テンポが早く、まだこの続きに何かあるぞ、といわんばかりのものであった。 次はバラード第1番。最初の低音のC音が鳴ったとき会場が一瞬沸きあがり、思わず「ブラボー」という者さえあった。このときのポリーニはまるで水を得た魚のようであり、「ポリーニ=冷徹な完璧主義者」という図式を覆すのに十分なものであった。この勢いが止まらないまま、10-4のエチュード、24番のプレリュードと続いて会場を大いに沸かせた。ほぼ総立ちであった。 クールなポリーニが好きな人にとってこのアンコールがどのように思えるかはわからないが、おそらく会場にいた聴衆はほとんど満足したのではないかと思う。そして僕にとっても忘れられない演奏のひとつになりそうだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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