カテゴリ:風変わりなピアノ
毎年恒例のフランクフルト楽器フェア(Musikmesse)。
ここには各メーカーが腕によりをかけてお披露目に逸品を送り込むわけだが、こういう場所には話題を呼ぶための“変り種”がつきものだ。 たとえば、3年ほど前にはブリュートナーが鍵盤の左右を入れ替えた「サウスポーピアノ」を発表したし、昨年の横浜のフェアでは白鍵のみのピアノというのもあった。これらは商品として実用化しようというものではなく、単に話題を呼ぶための見世物と言える。 そのような中で、案外「真面目な」動機を持った変り種が今年は存在した。それが上の写真のアップライトピアノである。 一見、普通のアップライトピアノである。どこが変り種なのかと思われるかもしれない。 実は左写真のアクションのように、アップライトピアノのアクションの下半身にグランドピアノのアクションを組み込んであるのだ。(白枠部分) と言っても調律師でなければ何のことやら、という感じだと思うので、右側のアクションの写真(上がグランド、下がアップライト)を見て比べていただくと、何となく、左写真のアクションがグランドとアップライトの合いの子であることがお分かりいただけると思う。 構造としては、グランドの水平に横たわっているハンマーの柄に垂直方向のハンマーをL字型に付けた形になっている。これにより、本来上下するグランドハンマーの動きが前後運動になり、アップライトにも使用できるようになる。発想は単純であるが意外に思いつかないアイデアだ。 このピアノはWendl&Lungというメーカーが、グランドの性能を持つアップライトを目指して開発したものだ。アクション以外にも、グランド特有のシフトペダル機構(左のペダルを踏み込むと鍵盤が右に動く仕組み)も採用されている。 通常、グランドとアップライトの顕著な違いはタッチ感にあるが、決定的なのは連打性能(秒間何回同じ鍵盤を叩けるか)がほぼ倍違うことである。そのために上級者用の曲になるとアップライトでは弾けないこともある。 さて、このピアノを僕と技術者のWさん、ピアニストのEさんとで検証してみた。 Eさんの弾いてみた感想は、「グランドとアップライトの中間という感じ」とのことだった。Wさんの意見では、「この展示されているピアノは調整がまだ完全ではないので、完全な調整がされればもっといい状態に近づくのではないか」とのことだった。 しかし、試作品ということもあって、この構造のままでは調整(整調)は不可能に近いほど困難に見えた。また展示用に響板がカバーされていたこともあるが、音のほうは決して良い物ではなかった。 とは言え、単なる見世物ではなく、このアイデアの路線のまま本気で楽器として良い物を作ろうと心がけ、いくつかの課題をクリアすれば、「グランドとアップライトの中間」のピアノとして良い楽器が出来上がる可能性はあると思った。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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