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カテゴリ:秩父巡礼
第32番札所
山号:般若山(はんにゃさん) 宗派:曹洞宗 本尊:聖観世音菩薩 巡拝日:2008年6月5日 ----------------------------------------------------------------- 山深い三十一番・観音院を後にし、山を下る。 途中、地蔵寺近くのそば屋で昼食。 天ざるのてんぷらが、ごま油の風味でおいしい。あっという間にたいらげる。 三十一番から三十二番へ至る道は、その間にそびえる山のすそに沿って、 地図上で言えば、ちょうどひらがなの「つ」を描くように迂回している。 だから、直線距離の倍近くの距離を車で移動することになる。 その山すそに広がっているのが、小鹿野の市街地。 街並みは、実に趣き深い。 巡礼とは別の機会に、あらためて訪ねたい。 小鹿野の街なかを抜け、道は再び山あいへ。 やがて道の左手に、歴史を感じさせる楼門が見えてくる。 そこが三十二番・法性寺。 登ってはダメ、とは書いていないので二階の鐘楼部分に登ろうと思ったものの、 叱られてはご利益も失せると思い、やめる。 ![]() 楼門をくぐると、本堂へ向かう石段が伸びている。ここだけで50段はあろうか。 本堂をスルーし、まっすぐ歩を進めると、さらに石段が続いている。 このあたりの石段は、巨大な岩石を掘削して階段状にしたもので、 相当古い時代に削られたのか、すでにかなり侵食されている。 しかも周囲は緑が深く苔むしていて、古道の趣きたっぷり。 聞けば、この法性寺は“秩父の苔寺”と呼ばれているとか。 納得の光景である。 ![]() その石段を登れば、1707年建立という観音堂に辿り着く。 断崖を巧みに生かした、見上げるばかりの舞台造りのお堂だ。 ![]() 観音堂へは、お堂の左手から内部へ入ってゆくことができる。ただし土足厳禁だ。 近づいてみると、お堂自体はずいぶん新しく見える。白木もまったく朽ちた様子がなく、 300年の風雪に耐えたようにはとても思えない。 舞台造りの基礎もコンクリートでしっかり固められていた。 ご本尊が安置されている堂内部は古くからのもののようだから、 もしかしたら、外側だけは近年に改築されたのかもしれない。 ともあれ、この立派なお堂の真ん中で、ご本尊は居心地がよさそうだ。 ![]() さて。 観音堂を降りると、巨石の割れ目のところから、細い山道が出ている。 消えかけた立て看板があって、かすかに読めるその文字によれば、 この小道を登ってゆけば奥の院に辿り着くらしい。 ということで、軽い気持ちで登り始める。 しかし、行く手はまったく甘くはなかった。 そもそもが、かろうじて人が通れるというぐらいの山道である上に、 雨模様のこの日は足場が抜群に悪い。 手には傘、納経帳、そしてカメラ。 奥の院まで行かねば巡礼も志半ばな気がしてスタートしたものの、 この道はそんなに安易なものではないことを、登り始めてすぐに感じ始める。 もしひとりだったら、早々に引き上げていただろう。 連れがいて本当に心強かった。 それにしても、登れども登れども、いっこうに奥の院へは辿り着かない。 ![]() 道を進むにつれて、周囲はまるで太古のような風景になってくる。 あきらかに手つかずの原生林の中に一本だけ、人が通れる筋が開かれている。 いや、実際にはその筋も、自然にできた沢なのかもしれない。 少なくとも雨模様のこの日は、山道が雨水の通り道にもなっていた。 熊やヘビに出くわさないとも限らないと、内心覚悟を決めながら登る。 幸いそのどちらにも遭遇しなかったが、途中で巨大なカタツムリに出くわした。 ![]() 何分ぐらい登ったのだろうか、本当に奥の院などあるのか? ひょっとして道を間違えたのか? といい加減不安になりかけた頃、 目の前に数体の石仏が現れる。そこに建つ祠には、 “奥の院まであと一息”の文字が。思わず胸をなでおろす。 気を取り直してさらに登るとすぐ、一気に視界が広がった。 鬱蒼とした森が途切れ、岩盤がむき出しになっている。このあたりが頂のようだ。 そこはもう、思わず声を上げてしまうような、思わず足のすくむ断崖絶壁。 そしてその先に、秩父の山々が広がっている。 ![]() 近くに看板があり、この岩を左に下ると観音さまが、 右に登ると大日如来さまがいらっしゃるという。 時間的制約があったため、どちらかひとつにしようということで、 大日如来を選び、さらに岩を登る。 すると、もはやロッククライミングの域にあるような、 鎖伝いでないと登れない岩が現れた。 ![]() リポビタンDのCMばりの体勢で登りきると、見えた! そこからさらに数段上に、ついに大日如来さまの頭が見える。 しかし、その残り数段が踏み出せない。 右手は高さ100mはあろうかという断崖絶壁、手には納経帳と傘とカメラ。 しかも雨で足場が悪い。勇気を見せたかったが諦め、 数段下から大日如来を拝み、下りることにした。 きっと如来さまが、それ以上来てはなりません、と言ったのだ。 そう思うことにした。 ![]() 慎重に岩場を下りながら、考える。 結局、奥の院というのはどこなのだろう。 せっかく登ったのに辿り着けなかっただろうか。 やっぱりどこかで道を間違えたのか…。 疑問にかられ釈然としないまま、観音堂への道を戻る。 帰り道は、もはや慣れたものだ。あっという間に境内へ辿り着いた。 本堂へ向かい、納経をお願いしながら、 連れと「いやぁそれにしてもたいへんだったね」と話していると、 書き入れをしていたお寺の奥さんが目を丸くして、 「行ってこられたんですか!?」と聞いてくる。 今日は足場が悪くてたいへんだったでしょう、とねぎらってくれる。 いいタイミングだったので、 「ところで奥の院てどこなんですか?」 と聞くと、あの岩場自体が奥の院なのだという。そうだったのか! 時間も体力もいっぱいいっぱいで大日如来さましか見れませんでした、 というと、観音さまはそこから見えますよ、と言って、 僕らの後ろあたりの足元を指差している。 振り返って見ると、「奥の院遥拝所」と彫られた石盤が置かれている。 ご丁寧に足型まで彫られていて、そこに立てば、 山道を登る苦労なくしても、岩盤上の観音さまを拝めるというわけだ。 なるほど、はるか彼方に細身の観音さまがいらっしゃる。 こんなこと、ちっとも知らなかった。 ![]() しかしまあ、ここから大日如来を見ることはできないわけで、 苦労して行ってきただけの価値はあったに違いない。 車での巡礼で、敬虔な巡拝者に比べてさんざん楽をしてきたけれど、 これで少しは、巡礼したことを胸を張って語れるだろうか。 なにか、言いようのない、感じたことのない達成感を感じた札所だった。 いよいよ、残りはわずか2ヶ所である。 般若山法性寺 秩父郡小鹿野町般若2661 tel.0494-75-3200 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008年10月20日 11時22分35秒
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