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じゃくの音楽日記帳

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2010.12.01
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ヤンソンス&コンセルトヘボウのマーラー3番レポート、最終回の今回は、ヤンソンスを中心に書いてまとめてみようと思います。

ヤンソンスのマーラーを聴くのは、僕は今回が初めてでした。結論からいうと、マーラーに特別な濃い思い入れは感じられませんでしたが、最初から最後まで、実に丁寧な音楽作りで、高い次元でバランスのとれた、名演奏のマーラーを聴けました。

ヤンソンスの第一楽章は、テンポの取り方に特徴がありました。基本テンポは普通でしたが、じっくり表現したいフレーズにさしかかると、その中でだんだんとテンポを落としていく傾向が目立ちました。その結果、シャープでスマートなスタイルではなく、どちらかというと後ろに後ろにと腰が残っていく重いスタイルでした。僕としては基本的にはこういうスタイルは好きですが、ところによっては、もっと流れるような流麗さが欲しいと、ややもどかしく感ずることもありました。

もっとも3番の場合、第一楽章の表現はかなり難いと思います。第一楽章は、すこぶる多種の「美味しい」内容が、ごっそりと含まれている音楽ですから、1回の演奏ですべてを表現し味わい尽くすのは不可能だろうと思っています。その中からどういう内容が強調されて出てくるかという、主に指揮者の解釈面での方向性が重要です。それと別に、オケの音響的な乗りの良さ(出だしなので、エンジンの回転がうまく上がって良い音が出ているかどうか)という問題も大切です。この両方とも高次元で充実している演奏には、そうなかなか遭遇できないです。

大雑把に言ってしまうと第一楽章には、重く厳しい面と、明るく喜ばしい面とがあると思います。凡庸な演奏では、どちらの面も出てきません。重く厳しい面は、優れた演奏によりしっかりと表現されることを、ときどき体験してきました。その筆頭が2001年のベルティーニ&都響です。ベルティーニの第一楽章は、終楽章までの一貫した設計が完全にできている中でぴしっと位置づけられていて、非常に厳しい、峻厳そのものの息詰まる音楽、背筋がぴんと伸びるような音楽でした。(これはこれで本当にすごかったですが、楽しくのびやかな表現がもう少し前面に出るときがあってもいいなと思いました。)

一方、明るく喜ばしい面を充分に表現している演奏は、そう滅多に出会えません。だいぶ以前で細部の記憶はありませんが、1994年のコバケン&東響はその貴重な例のひとつです。近年では、何といっても2005年の大植&大フィルが抜群に素晴らしかったです。夏の行進が、これほどいきいきと楽しく喜ばしく演奏されるのを聴いたことがなく、うきうきと心がはずんでくる第一楽章でした。反面、重く厳しい面に関しては、重さは出ていましたが、やや鈍重な感じで、厳しさの表現までには至っていませんでした。また、当時の大フィルのホルンとトランペットの非力さは、結構悲しいものがありました(今ではかなり進化をとげています)。でも、これまでに僕の体験した第一楽章のマイベストは、この演奏です。

それから、忘れがたい名演のひとつ、2002年のシャイー&コンセルトヘボウに関して言うと、特に東京公演の第一楽章は、オケのエンジンがかからず、しかもホルンとトロンボーンの鳴りが不調で、これがコンセルトヘボウの音かと疑うような貧弱なものでした。シャイーの棒も、何を表現したいのかまとまらず、不完全燃焼の第一楽章でした。

このように本当に違いが大きく出る第一楽章です。今回のヤンソンスは、ベルティーニのように徹底して厳しい音楽ではなく、大植さんのように喜び・楽しさに溢れた音楽でもありませんでしたが、その両者の面がどちらも程良く表現された、バランスの良い好演でした。サントリーでは第一楽章からオケが本来の実力を発揮していましたので、オケサウンドでの充実という面でも、横綱級の貴重な第一楽章でした。

第二楽章、これもある意味むずかしい楽章です。安易に演奏されてつまらない音楽になってしまうことが少なくないです。この楽章をきちんと演奏してくれるかどうかに、3番全体に対する指揮者の姿勢が如実に現れると思います。ヤンソンスは、しっかり丁寧に演奏してくれて、良かったです。

第三楽章は、ポストホルン篇に書いたように、ポストホルンの左右への振り分けがユニークな試みだったのと、ポストホルンの音色のゴージャスさが圧巻で、稀有な魅力の第三楽章となっていました。

第四楽章で、オーボエ・ソロで「自然音のように、引き上げて」という指示のある、スラーのついた三度音程の上昇音型が出てきますね。この音型が3回繰り返して出てくるところが、楽章の初め頃、中頃、終わり頃の3箇所あります。ヤンソンスはその3箇所すべてで、2回目の音量を1・3回目よりも一段下げてppで演奏していました。これはなかなか印象的で、このあたりの音楽の陰影を深めていました。とても良かったのであとでスコアを見たら、そういう指定は特に書いてなかったので、ヤンソンス独自の考えと思われます。(このオーボエの音量変化は川崎、サントリーとも同じに実行していました。)

結局第三、第四楽章は、ロイビンさん(ポストホルン)、ラーソンさん(アルト)という豪華助っ人(^^)が存在感たっぷりの演奏をくりひろげ、かつヤンソンスの細心な工夫もみられて、新鮮な魅力ある、とても聴き応えある音楽になっていました。

またサントリーではPブロックの不手際事件というアクシデントがありましたが、終わってみれば声楽陣の配置、入場、起立・着席などに、ヤンソンスは特別な奇策はとらず、川崎、サントリーともにほぼ通常の方法を手堅く実行して、引き締まった良い結果をもたらしていました。

終楽章。これもバランス良く、オーソドックスに丁寧に歌い込まれた演奏で、オケの力とあいまって、すばらしい名演でした。(今回のヤンソンスの終楽章は、僕にとっては、比類なき高みに達していたベルティーニやシャイーの終楽章と肩を並べるまでには至りませんでしたが、ここまで充実した終楽章なら、大々満足です。)


レポートの最後に、3番の終結の音、終楽章の最後に長~く伸ばす主和音(第328小節。この最後の和音はとても長いですが、スコアではたった1小節で、全音符にフェルマータがついて書かれています。)について、書いておきます。この長い和音、普通は開始時の音量のまま、最後までクレッシェンドせずに演奏されますね。スコアで見ても、この少し前からの最後の3小節は、木管と弦がff、金管とティンパニがfというシンプルな音量指定のままで、最後まで音量変化の指示はまったくありません。

さてこの最後の主和音ですが、ヤンソンスは川崎では、音の後半をクレッシェンドというか、約3段階で音量をあげていってフィニッシュしました。ここをこのように音量増大して締め括る演奏は珍しく、CDで僕が認識しているのは二つだけです。ひとつはパーヴォ・ヤルヴイ&フランス国立管のCD-R(2002年演奏)。もう一つはスヴェトラーノフ&ロシア国立響のCD(1994年録音)です。特にスベトラーノフは非常に個性的で、最後の3小節を、1小節ずつ段階的にクレッシェンドしていくという感じの豪快な方法で締め括ります。

しかしこういうクレッシェンドは、僕としては違和感があります。3番の音楽は、そのように音量をあげて力をこめて終わるのはそぐわない音楽のように感じています。力は抜けていて、自然体で、いわば大自然と繋がっている喜びを感じているような音楽に思えます。(バーンスタイン&ウイーンフィルやアバド&ルツェルンのDVDに見るここの指揮ぶりは、まさにそういう感じがします。バーンスタインの指揮ぶりには茶目っ気さえ感じるし、アバドの表情は、内からのよろこびがにじみ出ている何ともすばらしい表情ですね。)

なので、川崎でヤンソンスのこのクレッシェンド方式を目の当たりにしたとき、ちょっと違和感を感じていました。ところが、ところがです。ヤンソンスはサントリーでは、やり方を変え、あまりクレッシェンドしなかったのです。(僅かにしたようにも思いましたが、川崎のような目立つやり方ではなく、ほんの僅かでした。)それで僕としてはとても自然に、違和感なく聴けました。

衛星放送された2月のアムステルダムでの彼らの3番演奏を後日見て確認したところ、やはりクレッシェンドしない、通常方式でした。

ですのでヤンソンスは、川崎でクレッシェンド方式を試してみた結果、やはりクレッシェンドしない方が良いと判断して、元のやり方に戻したのだろうか、と想像しています。この想像を押し進めると、ヤンソンスは、おそらく他のもっと微妙な目立たない箇所でも数々の新しい方法を試みて、より良い演奏をたえず目指しているのではないか、と思ったりします。そのような意欲と努力の結果が、今回のような充実したマーラー演奏に結実しているのだろうなぁ、と想像して感心している次第です。

いろいろ波乱がありましたが、終わってみれば全編にわたって素晴らしい名演。またひとつ、かけがえのない3番体験ができました。ヤンソンス、ロイビンさん、ラーソンさん、コンセルトヘボウの皆さん、ありがとうございました。





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Last updated  2010.12.02 01:58:31
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