カテゴリ:脱原発に向けて
小出裕章氏の「原発のウソ」を読みました。 扶桑社新書 094 ------------------------------------------------------------------------- この二つの章が導入で、第三章から、核心にはいっていきます。現実に今日本で起きていることがどのくらいひどい状況かということが、きびしい現実を正しく直視している小出氏の冷静な筆致により、淡々と書かれています。氏は苦渋の提言をしています。少し紹介します。『』は本書からの直接の引用です。) 『大変言いにくいことですが、おそらく周辺住民の皆さんは元にもどれないでしょう。むしろすぐに戻れるような期待を抱かせる方が残酷です。現実的な方策として、私はその無人地帯に汚染されたゴミを捨てる「放射能の墓場」を造るしかないと思っています。』 そして、汚染された農地の再生は、不可能であろうこと、若い人ほど被曝による危険が高いこと、今となっては食物の汚染は避けようがないことから、氏は次のように言います。 『どんな汚染でも生じてしまった以上は拒否してはいけない。「汚染されている事実」をごまかさずに明らかにさせたうえで、野菜でも魚でもちゃんと流通させるべきだということ。そして「子どもと妊婦にはできるだけ安全と分かっているものを食べさせよう。汚染されたものは、放射線に対して鈍感になっている大人や高齢者が食べよう」ということです。』 『マスコミは「暫定基準値を下回っているから大丈夫」としか言っていませんが、基準値以下だから安全だ ということは絶対にありません。なぜ消費者に分かるように、一つ一つの食品についての「汚染度」を表示しないのでしょうか。汚染度を表示しさえすれば、個々人が自分の判断で「食べるか食べないか」を決めることができます。自分の命にかかわる基準を他人に決めてもらうやり方は、根本的に間違っています。 すぐには受け入れがたい提言、と思う方もいらっしゃることでしょう。しかし長くこの問題にとりくんできた小出氏だからこそ言える、真摯で苦渋の提言を、僕たちは重く受け止める必要があると思います。 次の第四章では、原発の「ウソ」がずばりとまとめられています。 原発は電気を作ると同時に「死の灰」も作る。これが原発の抱える危険の根源である。今や日本のあちこちに広島原爆の80万倍もの「死の灰」がたまっている。 政府や電力会社は原発の危険性を元から良くわかっていた。だから国の原子力委員会が定めた「原子炉立地審査指針」で、原発は人口密集地から離れたところにつくるべしと決めている。 原発は危険が高く、大事故が起こったときの損害はきわめて巨額にのぼるので、個々の電力会社が補償できないし、そんなリスクをわざわざ背負いたい会社はな い。したがって電力会社は放っておいたら原子力発電をやらない。そこで政府は電力会社を原子力開発に引き込むために、「電力会社は事故時の賠償金を全額払 わなくてもよい、あとは国が払う」というおかしな法律を作った。それが「原子力賠償法」。 さらに電力会社を原子力発電に導くために、国は電 力会社を独占企業にして、しかも絶対に損をしないで利潤が出るように、電気料金を決めてよい、という法律を決めた。すなわち、電力会社が持っている資産の 何パーセントかを、自動的に利潤として上乗せしていい、と決められている。原子力発電所を作れば作るだけ、資産がどんどん増えるので、利潤がどんどん増える。原発を作れば作るだけ、儲けが増えるように、法律で保障されている。 電力会社が「原子力発電のコストは安い」と言っているのはウソである。実際に調べた結果では、火力や水力よりも原子力発電のほうが高い。 「原子力発電は二酸化炭素を出さない」というのもウソ。ウランの核分裂反応が二酸化炭素を出さないだけで、実際に原子力発電をするためにウラン燃料を採掘、製錬、濃縮、加工して、さらに使用済み燃料を再処理、廃物処分するという一連の過程で、沢山の二酸化炭素を発生する。 そもそも二酸化炭素よりもはるかに危険な「死の灰」を生み出し続けるのに、クリーンとかエコとかいうのはまったくおかしい。 しかも原発は直接海を温め続ける。標準的な100万Kwの発電をする原発は、1秒あたり70トンの海水を引き込んで、その温度を7度上げ、また海に戻している。日本の川から海に流れ出る総流量は、年間で約4000億トン。一方、日本中の今の原発が7度温めている海水は、年間約1000億トン。原発は日本近海を直接多大に温めている装置。 第五章では、 石油や石炭に比べて地球上のウランの資源量は実はごくわずかで、石油よりかなり前にウランが枯渇してしまうことが明らか。「化石燃料が枯渇するから未来のエネルギーは原子力」という宣伝はまったくの誤り。 燃えないウランからプルトニウムを作ろうという核燃料サイクル計画は、世界の核開発先進国は次々と撤退している。日本だけが、できもしない計画にいまだに拘泥し、破綻確実の高速増殖炉「もんじゅ」に莫大なお金(すでに1兆円以上)を無駄に使っている。 核燃料サイクル計画が頓挫しているため、日本にはいまや沢山のプルトニウムがたまってしまっている。これを何とか消費するために、苦し紛れに、危険な「プルサーマル発電」(普通の原子力発電所でプルトニウムのたくさんはいったMOX燃料を燃やす)を始めたり、さらに危険な大間原発(世界に前例のないフル MOXの原子力発電所)を作ろうとしたりしている。 『愚かな行為のためにさらに愚かな選択を迫られる悪循環に陥っているのが、日本の原子力発電の本当の姿です。』 第六章で は、地震地帯に原発を建てている日本の愚かさが指摘されています。特に、六ヶ所村にある使用済み核燃料再処理工場が、安全性、経済性、あらゆる意味で有害 無益な施設であることがわかりやすく解説されていて、また高速増殖炉「もんじゅ」に大事故が起きたら、普通の原発の比ではない大災害になることも指摘され ている。 第七章、見事なまとめです。これは皆様、この本を買って、是非直接お読みください。 ちょっとだけ引用させていただくと、 『いちばんの代替案は「まず原発を止めること」です。「代替案がなければ止められない」というのは、沈没しかけた船に乗っているのに、「代替案がなければ逃げられない」と言っているようなものです。命よりも電気の方が大事なんですね。 このあと、すべての原発を止めても電気は足りることが、数字で示されています。 そしてさらに、原発を止めてもそれで終わりではないこと、今すでに沢山できてしまっている放射能のゴミを管理していかなくてはいけないこと、それがいかに長期にわたり、至難なことであるか、それが書かれています。 ------------------------------------------------------------------------- この本には、小出氏がこれまで長く発言されてきたであろうこと、そして今回の事故後にいろいろな場所(講演、メディア、国会など)で提言されていることが、 とてもわかりやすく、コンパクトに、しかも具体的に書かれています。今でも漠然と「原発はなんとなくこわいけど必要なのかなぁ」と思っている人は多いのかもしれません。もし周りにそういう人をみかけた方は、その人にこの本を強くプッシュしませんか。その人に是非是非この本を読んでもらって、原発に対するご自分の意見を、ご自分の責任で、持ってもらいたいものです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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