マーラー3番を聴きに、京都にやってきました。今回は大野さんの振る京響です。
京響を聴くのは今回が初めて、どんな音になるのか楽しみでした。
熱い日差しの中、会場の京都コンサートホールに到着しました。
開場までのひとときを、併設のレストランでカフェオレを飲んで過ごしました。
このレストランには広上さんのスペシャルメニューもありました。次の機会には食べてみたいです。
さて、時間です。ホールに乗り込みましょう。
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京都市交響楽団第548回定期演奏会
7月24日 京都コンサートホール
指揮:大野和士
独唱:手嶋眞佐子(メゾソプラノ)
合唱:京都市民合唱団(女声)
児童合唱:京都市少年合唱団
管弦楽:京都市交響楽団
マーラー 交響曲第3番
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独唱は、予定されていたアルトの小山由美さん(ドイツ在住)が体調不良で来日不能になったため、ピンチヒッターとして手嶋さんが登場ということでした。手嶋さん、昨年の札響のマーラー3番でも歌ってました。
オケの配置は普通で、弦は下手から順に第一第二のヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、コントラバス。合唱団とおぼしきスペースは、舞台上ではなくて、舞台とオルガンの間の数列の座席のうち後方の2列です。なお前方の3列(2列だったかも)には普通にお客さんが着席していたのが、珍しかったです。そしてチューブラーベルが、舞台上ではなく、合唱団席の下手側の端っこ、すなわちマーラーの指示通りの高い位置にセットされていたので、期待が高まりました。
オケが入場し、演奏が始まりました。速めのテンポで進んでいきます。大野さんの指揮による第一楽章、きっちりとしていますが、僕としてはもっと歌うようなふくらみが欲しい感じでした。オケは、第一楽章から良く鳴っていました。とくにホルン隊はいい音色で力もあり、立派でした。
楽章半ば過ぎて、ホルンの主題が再現される直前の舞台裏の小太鼓は、舞台下手側のドアがあけられて、その向こうから聞こえてきました。僕の席は1階3列目のやや左寄り、つまりあけられたドアのかなり近くだったにもかかわらず、この小太鼓は近すぎないで程よい距離感を持って響いてきたので、とても良かったです。
途中ユニークだったのは、トロンボーンのモノローグが終わって、夏の行進が小さく始まってしばらく続いていくところ(練習番号21~25と、63~65)でした。ここは弦の各パートがそれぞれ半分の奏者で弾くように指示されていて、普通は各プルトのオモテないしはウラの一人が弾くのだと思いますが、今回の大野さんは、後ろ半分のプルト、すなわち指揮者から遠いところに位置する奏者で弾かせていました。しかしこれ、指揮者から遠く離れた奏者たちが弾いたため、合わせにくかったこともあってか、アンサンブルの縦の線が不ぞろいになりかけて、はらはらしました。それと、この方法だと指揮者を中心に半径何メートルかの音の出ない空間があり、その外から音が出てくるので、僕のように指揮者のかなり近くの席で聴いていた者にとっては、何か音世界が空洞化したように聞こえました。夏の行進の喜びが徐々に盛り上がってくるこの部分でのこのような空洞化は、少なくとも僕の席では違和感があって、この方法は疑問に感じました。離れた席で聴いたら、また違った印象なのかもしれませんが。
第二楽章が終わったところで合唱団が早くも入場してきました。舞台とオルガンの間の後方2列に、下手側三分の一に児童合唱、中央から上手側三分の二に女声合唱団が並び、着席しました。児童合唱のすぐ向かって左隣に鐘があるという、見るだけでうれしい配置です。児童合唱団の名前は「京都市少年合唱団」なので、男児だけなのかもと想像しましたが、男女比は半々くらいでした。(でも男児がほとんどいない場合も多いので、これだけ男児がいるのは立派です。)さて合唱団が入場し終わって静まってから、独唱者がしずしずと入場してきて、拍手が自然に湧き起こりました。独唱者は指揮者のすぐ左側に置いてある椅子に座りました。
第三楽章のポストホルンは、舞台の右横上方、2階か3階の裏の方から聞こえてきました。いい音色、いい音程で、それが程良い距離感を持って遠くから響いてきて、すばらしいです。また、最初のうちはやや遠くから響いていたのが、最後のほうはさらに遠くから聞こえてくるように小さく響かせていたのも、とっても感心しました。マーラーはポストホルンの距離についてもスコアに細かく指示していて、遠くから始まって、ちょっと近づいて、また遠ざかって終わるようになっていますが、この指定をきちんと実行しようとする指揮者は少ないです。僕の体験したなかでは、今年2月のチョンミュンフン&N響の公演くらいです。(チョンミュンフン&N響の二日目の記事に書くつもりでしたが、今のところ書かずじまいになってしまっています。)あともう一つ、2006年に準メルクルが国立音大を振ったサントリー公演でも、距離感に関する準メルクルの工夫が見られましたが、効果としては不十分でした。)
第四楽章が始まる前に、大野さんは合唱団をあらかじめ起立させました。このあたりのこだわりにも感心しました。第四楽章が終わってから合唱団を立たせる普通の方法と比べると、この用意周到な方法は第四と第五楽章のアタッカの緊張を維持するのに非常に効果的ですが、2002年のシャイー(コンセルトヘボウ)など、ごく僅かな指揮者しか実行しません。
第四楽章の最後の長いチェロとコントラバスの弱音が消えないまま、文字通りアタッカで、第五楽章が始まり、それとともに合唱団にも照明が明るく照らされました。いい入り方です。しかし、肝心のチューブラーベルの音がとても弱々しく引っ込んでいて、あまり聞こえてきませんでした。折角高さにこだわった良い配置だったのに、このベルの音は非常に残念でした。
第五楽章が終わると、すぐに合唱団と独唱者は座り、緊張感が保たれたまま、第六楽章が始まりました。この4,5,6楽章のつながりを大事にする点も、大野さんは充分に配慮していて良かったです。
第六楽章は、はやめのテンポに始まり、最後のほうは少しテンポを落としてじっくりと歌うという流れでした。
曲の最後の音が、まだ物理的な残響が残っているうちに拍手が始まりました。こういった非常に早いタイミングでのフライング拍手(super early flying)を聞くことは最近はほとんどなかったので、久しぶりでした(苦笑)。(フライング拍手についてはこちらの記事「余韻考(3)」をご参照ください。)
拍手が続く中、オケのメンバーを個別に立たせるときになり、最初に立たせたのはトロンボーン、これはまぁお作法ですね。そのあとトランペット、そして木管の各セクションを立たせたあと、ようやくホルンの番になりました。今日のホルン隊は本当にすばらしかったです。そして、そのしばらく後に、2階の右手サイド奥の客席に、トランペットとおぼしき楽器を持った奏者が登場しました。ポストホルン氏(ぐすたふさんのブログによると早坂氏とのことです)の登場です。このポストホルンも、音色、音程、距離感、すばらしかったです。
なお最後まで合唱指導者が舞台に出てこなかったのは異例でした。そういえばプログラムには、合唱団のメンバーの名前は出ていますが、指導者の名前が出ていないのも珍しいことです。
ところでチェロとヴィオラにどうも見覚えのあるお顔が見えていたので、終わってからプログラムのメンバー表を見たら、チェロの客演首席が神奈川フィルの首席山本裕康さん、ヴィオラの客演首席が神奈川フィルの首席柳瀬省太さんということでした。お二方、京響に参加されてるんですね。
以上、散漫な文章になってしまいましたが、オケのことをまとめると、1日だけの公演で、ここまで充実した音を出した京響は、立派の一言でした。
さて大野さん。大野さんのマーラー3番は、1998年に東京フィルを振ったとき聴きました。このときの細部は覚えてないですが、いささかがっかりしたことを覚えています。今回聴いて感じたのは、大野さんの3番は、全体の設計を優先しているように思いました。この長い音楽を弛緩するところがなくまとめ、そして最後の盛り上がりまで全体の構成をきちんと設計して、それをしっかり音作りしているという感じです。それはもちろん良い点でもあります。その一方、細部の、たとえば管の短いひと吹きやハープの一音などが、あっさりと流れてしまうところが多々あります。そこが僕にはとっても物足りないです。僕はもっと細部のひとつひとつの意味が次々と現れてきて、それがかみ合ったりぶつかりあったりしながら全体が積み重なって出来ていくようなマーラーが好きです。チューブラーベルやハープなど、もっともっと音にこだわってもらいたいと思いました。その意味で僕の好きなマーラーではありませんでした。
でも、全然つまらなかったと言うことではありません。聴いていて、しっかりした構成感というか、整理された見通しの良い音楽の流れの中に浸る心地よさを感じました。ところどころ、あぁいい音楽だなぁ、と感動するときもありました。こういうマーラーもありなのでしょう。それに大野さんの、後半楽章のアタッカにこだわったことや、距離感に関するセンスの良さには、感心しました。
いずれ広上さんの振る京響の3番を聴いてみたいなぁと思いながら、帰路に着きました。