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じゃくの音楽日記帳

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2011.09.08
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インキネン&日フィルのマーラー3番初日、その2(第四楽章以後)です。

第三楽章が終わったあと、インキネンは合唱団を起立させ、合唱団に照明が照らされました。このように第四楽章の始まる前にあらかじめ合唱団を立たせておくのは、これまでにも書いてきたとおり、第四楽章以後のアタッカをしっかり実行するためにはとても良い方法です。インキネンはうれしいことにこの方法を採用してくれたわけです。

合唱団の起立がおさまって雰囲気がかなり静まったあと、独唱者が入場してきて、指揮者のすぐ左前に立ちました。普通なら拍手が少々生じても無理からぬ入場方式です。しかもここまでの会場の雰囲気は、寝息が聞こえたり、不注意による小さなノイズが響いたりと、あまり聴衆の緊迫感が感じられなかったので、「いつもの定期演奏会としてのんびりと聴いている人も多々いるのだろう、拍手が起こっても仕方ないだろうな」とあきらめていました。しかししかし意外にも、拍手がまったく起こりません!思いがけずもうれしい、きちんと静寂が保たれるなかでの独唱者入場でした。インキネンの音楽の魅力がそうさせたのでしょうか。

第四楽章。歌い出しからしばらくはオケと独唱の音程が合わずヒヤリとしましたが、ほどなくあってきて、あとはしっかり聴かせてくれました。きょうの独唱者はインキネンの指名ということです。どちらかと言えば朗々とした歌いっぷりでした。コンミスのソロもそれとあわせてか、やや骨太の朗々系でした。僕としては、ここの歌はもう少しひそやかな雰囲気があったほうが好きですが、でもこれはこれで美しい第四楽章でした。

第四楽章の最後の長い音がやんで、短く完璧な静寂のあと、アタッカで第五楽章が始まりました。チューブラーベルが、明るく良く通る、いい音です。そしてそして、合唱が絶美!杉並児童合唱団も、栗友会の女声合唱も、発声が無理なく、透明感があり、とてもきれいな声です。合唱団自体がもちろん優秀なのだろうと思いますが、それにしても栗友会によるこの曲の女声合唱は何回も聴いているはずなのに、これほどきれいと思うことは、なかなかありません。思うに、インキネンの指示が良いのではないかと。女声合唱は60人の大人数だったので、人数を生かして、一人一人にはあまり大きな声を出させず、透明感を優先させたのではないか、と思いました。北欧は合唱のレベルが高いですから、もしかしてインキネンは合唱の指導にもたけているのかもしれない、そんなことも思わせる、素晴らしい合唱の響きでした。途中、独唱の最後の出番のところ(練習番号5)では音楽のテンポがぐっと落とされ、ここも聴き物でした。なお独唱者は自分の出番が終わったあと、楽章の途中で、僕が音楽に聞き惚れているうちにいつのまにか座っていました。充実した第五楽章でした。(あえて贅沢を言えば、チューブラーベルが高い位置に置かれていたら、言うことなしでした。)

そして第五楽章が静寂に消えていき、合唱団はそのまま立ったまま、またしても短くも完全な静寂ののち、アタッカで終楽章が始まりました。これぞ真のアタッカです!このところ第五楽章が終わったあと、合唱団を座らせてから終楽章を始める演奏が続いていました。それが絶対だめというわけではないけれど、今日のようなアタッカを体験すると、やっぱりこれが本当だと思います。

なお、第六楽章を聴きながら、合唱団をいつ座らせるのだろうかと思っていたら、結局最後まで立たせたままでした。これもインキネンの見識ですね。さまざまな指揮者が合唱団をいつ座らせるか、工夫をこらしています。これも前に書いてますが、僕のもっとも感心した方法は、シャイー&コンセルトヘボウの来日公演です。第五楽章の最後近くに、全合唱団の短い休み(3小節弱)があります。その僅かな休みを利用して合唱団を素早く座らせ、そのあと第五楽章最後までの11小節を、座ったまま歌わせる方式でした。これだと、そのあとに続くアタッカの静寂も保たれるし、第六楽章の途中で合唱団を座らせる必要もないので、音楽の邪魔になることがまったくありません。ちなみにシャイーも、第四楽章の始まる前にあらかじめ合唱団を立たせていました。シャイーはこういう工夫によって、第四・第五・第六楽章のアタッカを静寂と緊張に満ちたすばらしいものとしていました。これを個人的に「シャイー方式」と呼んでいました。今回のインキネンは、合唱の起立はシャイーと同じ第四楽章の始まる前というタイミングで、そして全曲の終わりまで立たせっぱなし、という逆転の発想でした。小さい子にとっては立ち続けるのがちょっと大変かもしれませんが、アタッカの静寂・緊張と音楽を最大限に尊重する意味では、シャイー方式と同様の、すばらしい方法だと思います。今後「インキネン方式」と呼ぼうと思います(^^)。

終楽章の音楽。これも本当に素晴らしかったです。基本テンポは普通かやや遅めといったところ。しなやかに美しく、そしてやはり気がつけばテンポが速くなっていたり、気がつけばゆっくりになっていて、緩急の変化は大きいのですが、それが曲想にぴったりと完璧にあっているので、ごく自然に響きます。途中の打楽器による雷鳴の轟きは充分な力強さと深さで胸に響きます。この終楽章の演奏、本当に、聴いていて幸せを感じます。

そして最後の難所、金管コラール。インキネンはここはぐっとテンポを落とし、コラールをゆったりと歌わせていきます。一番トランペットはもはや体力の限界を越えていて、へとへとになり苦しみながらも、なんとかここを吹ききりました。そしてそのまま、ゆったりと大きく音楽は進み、最後の主和音が充実して響き、全曲が結ばれました。

そのあとです。
最後の残響が鳴りやんでも拍手がまったく起こりません。完全な静寂がホールを包みました。やがてインキネンが指揮棒を降ろすまで、その静寂は続きました。
居合わせたすべての聴衆の心に、この音楽のすばらしさがしみこんでいたのでしょうか。そうでなければありえない、しばしの幸福な静寂のひとときでした。

細かなキズは多々ありました。すばらしかったホルン首席も、終楽章の途中で音が突然欠落するというまさかの大事故もありました。でも、音楽に完全に引き込まれていたので、僕としてはそれらのキズでいささかも感動が損なわれませんでした。もちろんオケの技術というか、音の美しさとしては、もっとハイレベルな3番はいろいろあります。直近で言うと、去年のヤンソンス&コンセルトヘボウしかり、今年の佐渡&PCA・MCOしかり。でも、インキネンに導かれ、100%、いや 120%の力を出した日フィルのひたむきな頑張りは、それらに勝るとも劣らない感動をあたえてくれました。技術はとても大事ですが、感動の本質は技術それ自体とは異なるところにある、ということを、今回も実感しました。

拍手が続き、オケ奏者を一人ずつ立たせるときになり、まず立たせたのはトロンボーン首席。この方、涙を拭う仕草をされてました。インキネンはかなり長いことこのトロンボーン奏者を一人で立たせて称えていましたので、もしかしていろいろな苦労があり→それを乗り越えての演奏→男泣き、という心境だったのだろうか、と想像を巡らせました。そのあと何人か立たせてから、ホルン首席が立ちました。アシストなしで、すばらしいホルンでした。トロンボーンをまねて涙を拭う仕草をして、ほほえましい笑いを誘っていました(^o^)。終楽章の痛恨の大事故を意識しての、涙ぬぐいだったのでしょう。やがて、舞台下手から登場したのはバルブつきのポストホルンを持った外人奏者でした。客演首席奏者のオッタビアーノ・クリストーフォリさんでしょうか。きょうの演奏を聴いたとき、音色的にはポストホルンではないだろうな、と思っていたので、楽器を見てちょっと驚きました。

ともかく、総力戦で力を出し切ってくださった日フィルの皆様、ありがとうございました。

そしてなんといってもインキネンのマーラーは素晴らしい!奇抜なことは全然やっていないし、変なリキミもない、自然で柔軟な、それでいて従来とは違う、みずみずしい魅力にあふれた説得力あるマーラーでした。この3番を聴く限り、ワタクシ独断と偏見で、インキネンは天性の新世代マーラー振り、と断定いたします!

今回、インキネンの若い感性が、これまでとは違う新しいマーラー音楽の魅力を拓いてくれている、そんなことを感じながら聴いていたら、そういえばかつてこの曲のサロネン&ロサンゼルスフィル盤(1997年録音)を聴いたときも、こういう感じがしたなぁ、と思い出しました。サロネン盤も、新しい感性で、3番の新しい魅力を描き出してくれていました。どちらも同じフィンランド人、何か共通するものがあるのかもしれません。

このところ3番の複数日公演で、初日の公演は「はずれ」ということが続いていたので、久しぶりに、「初日なのにすばらしい!」ということと、「この3番が明日もう一度聴ける!」という喜びにやや興奮しながら、帰路につきました。インキネンと日フィルと合唱団の皆様、ありがとう!また明日よろしく!!






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Last updated  2011.09.09 00:57:28
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