2012年度大阪国際フェスティバル特別公演
指揮:大植英次
メゾソプラノ:アネリー・ペーボ
合唱:大阪フィルハーモニー合唱団
児童合唱:大阪すみよし少年少女合唱団
管弦楽:大阪フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:田野倉雅秋
マーラー 交響曲第3番
2012年5月10日
兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
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マーラー3番を聴きに、今年もまたやってきました、兵庫県立芸術文化センター。昨年は佐渡さんとPAC&MCOの3本勝負(3日連続公演)でした。今年は大植&大フィルの1本勝負、泣いても笑っても今日1回だけです。大植さん&大フィルの3番といえば、2005年シンフォニーホールでの感動体験が忘れられません。あれから7年ぶりとなる大植さんの3番、今度はどんな体験になるのでしょうか。当日、昼過ぎののぞみに乗って駅弁を食べ、阪急線経由で西宮に到着しました。まだ開場までは多少時間があり、センターは閑散としていました。
会場のKOBELCO大ホール入り口です。(↓)
昨年と同様にコンサートのチラシを掲示した小さな立て看板が置いてありました。
この空間は本当に素敵です。そのあとホール隣のカフェテリアで開場を待ちながら、コーヒーとサンドイッチで軽く腹ごしらえしました。食べてばっかりの気が(^ ^;)。
いよいよ開場時刻となり、ホールに入りました。実は今回チケットをとるときに大チョンボをやってしまいました。1階平土間の、前から数列目を買ったつもりだったのに、間違って最前列を買ってしまったんです。オケピットの座席がステージとして使われるのを、うっかり座席と勘違いしたという、初歩的なミス!この間違いには買って間もなくして気がついたので、その後今日まで気持ちの準備をそれなりにして(覚悟を決めて)来たのですが、実際に座ってみるとやはりなかなかすごい(近すぎる)席でした。それでもほぼセンターだったのは幸いでした。
ところでオケの配置です。弦は左から第一Vn、第二Vn、Vc、Va、Cbの通常配置。合唱は女声、児童ともに後方の雛壇に横に並び、中央に女声合唱、その左右に児童合唱で、チューブラーベルは雛壇の右端でした。独唱は指揮者のすぐ左手。したがって全体にオーソドックスと言える配置でした。僕の席の目の前がヴィオラトップの小野さんで、左前すぐには大植さんという、超かぶりつき(^ ^;)です。なお7年前のときは、第一楽章が始まる前に全合唱団がクワイア席に入場し着席しましたが、今回は合唱団は入場せず、第一楽章が開始されました。
第一楽章、のっけからの大変化技に、僕はのけぞりました!ホルン主題がかなり早めのテンポで始まり、「これはかなり速いな」と思っていると、すぐ第5~第9小節の上行音型、ラーーーシードレミーーーー、レミファーーーー、レミファーーーー、が、突然のスローテンポで奏されました!
ここはテンポを変えないのが普通ですよね。昔セーゲルスタムのCDを聴いたとき、ここ第5小節からややテンポを落として演奏されていたことにかなり驚いて、スコアを確認したところ、この第5小節には Nicht eilen と書いてありました。マーラーのスコアに良く出てくる指示で、「急がずに」という意味です。普通に演奏するとつい少し速くなりがちになるのをマーラーが嫌って、テンポが速くならないように注意を喚起するために指示したのだと思われます。セーゲルスタムはわざわざその箇所でテンポを遅くしたというわけですから、そのユニークさに唸ったものです。
今回の大植さんは、このセーゲルスタム路線をさらに推し進めた極端なテンポ変化で、正直相当なショックを受けて、「これはないでしょう」と気持ちがいささか退いてしまいました。もともと最前列なので、「できればもう少し後ろで聴ければなぁ」と思っていたところ、このテンポ変化に気持ちがのけぞって、ますます後方に身を退きたい、という心境になったのでした。
このショックが大きくて、その後の演奏の記憶があんまりないのですが(^ ^:)、多分その後の第一楽章は、基本テンポは速めで、フレーズによってはゆっくりとしたテンポをとるという、変化幅が大きいものでした。その変化の大きさにオケもついていきにくそうで、ところどころでアンサンブルが乱れかけました。聴いていてこちらもなかなか落ち着かず、音楽になかなか浸れませんでした。ただそれでも、昨年大植さんが大フィルとここ同じ会場で演奏した、アゴーギグが不自然極まりなかったマーラー4番の演奏ほどにはエキセントリックな感じはしませんでした。第一楽章途中の夏の行進の明るい表現には、さすが大植さんの持ち味とも言うべき明るい魅力を感じたりしました。
やがて楽章途中のホルン主題の再現部分。ああやはり、恐れていたとおり、冒頭と同じ、もしかしたらさらにきつい、大胆なテンポ変化でした。速いテンポで始まった主題が、途中の上行音型のところが極度に遅いテンポ。そして、そのあとのファーミーレードー♭シーラーソーの下降音型のところは再び速いテンポとなり、そしてそのあとはまたスローテンポと、急・緩・急・緩と目まぐるしいギアチェンジでした。僕はもうだめ押しを喰らってしまい、最前列センターで更に気持ちが大きくのけぞって呆然とし、その上空をただただ音響が次々に通過していくような心境のまま、残りの第一楽章が過ぎていきました。
第一楽章が終わったあと、合唱団が入場してきました。入場し終わるとオケが再びチューニングして、それで第二楽章が始まりました。ここで気持ちを切り替えて音楽にききいろうとしたのですが、僕にとってはテンポが速すぎる第二楽章です。大植さんらしいチャーミングな歌が、聴こえてきません。なんとも残念です。
第二楽章が終わると、赤い生地に銀の星々をあしらったイメージのドレスをまとった独唱者ペーボさんが入場してきて、会場には拍手が沸き起こりました。迎える大植さんは独唱者とがっちり握手を交わし、会場の拍手は一層盛大になりました。ちなみに7年前は、独唱者入場のタイミングは第一楽章が終わったあとでした。そのとき大植さんは独唱者(アルトの坂本朱さん)を迎えるとき拍手をせず、左手を下に下げたままで自分のズボンの横を小さくパタパタパタと叩いて拍手の代わりにひっそりと歓迎の意を示したものでした。今回のがっちりとした握手は、予定されていたアルトが体調不良となり、急遽その代役で歌ってくれるペーボさんへの感謝を込めた行為だったのかもしれません。
第三楽章も、僕の好むテンポよりやや早めで進み、自然の息吹があまり感じとれず、やはり残念な感じが否めません。しかし途中のポストホルンは、ポストホルンらしい明るい音色がとても素敵でした。傷が皆無というわけではありませんでしたが、大植さんの歌わせ方の魅力と相俟って、かなりいいポストホルンをじっくりと味わえ、良かったです。最前列で聴く限りですが、距離感も程よいものでした。(演奏終了後に登場したポストホルン奏者は若い篠崎さんでした。7年前には、名手秋月さんが夢のように素晴らしいポストホルンを聴かせてくれたものでした。今回のラッパ隊はポストホルン篠崎さん、1番トランペット秋月さんという超強力布陣だったわけです。)
第三楽章が終わって少し間合いをとったあと、第四楽章で歌うために独唱者が起立するとともに、合唱団も一斉に起立しました。これは第四楽章と第五楽章のアタッカを実行するために僕としてはベストな方式と思います。7年前も同じ方式でした。
第四楽章。ペーボさんの歌は、昨年のインキネン&日フィルの3番でも聴きました。今回、独唱が途中で入り損ないかけるという珍しい小事故があり、ドキッとしました。今回はのけぞったりドキッとしたり、なかなか気が抜けない3番です(汗)。
第四楽章と第五楽章のアタッカはきっちり実行され、第五楽章が始まりました。7年前には、第五楽章の始まりの鐘と児童合唱の歌と同時に、シンフォニーホールのクワイヤ席の合唱団に照らされていたほのかな照明がパッと明るくなり、朝日が差し込んだような、鮮やかな効果をあげていました。今回は合唱団は舞台上の雛壇だったのでそういう照明の演出は多分なかったと思いますが、なにぶんにも最前列なので、舞台後方はほとんど見えず、そのあたりのことは良くわかりませんでした。第五楽章は普通に進んでいき、悪くなかったです。そしてペーボさんの着席のタイミングは、自分の歌の出番が終わって少し間合いを置いてから、オケの間奏中に静かに着席するという、心得た良い座り方でした。
第五楽章と第六楽章はもちろんアタッカで演奏されました。ただし普通は第五楽章が終わって指揮棒が何秒間か静止し、それから第六楽章の入りに向けて指揮棒が一拍分前振りされますが、今回は静止している時間は比較的短く、そのあと大植さんは無音の前振りを1、2、3と三拍分振りました。これは珍しいです。これだと、アタッカはアタッカでも、間に1小節の休みがはいることになり、ちょっと間延びした感じがしました。ついでに合唱団の着席について書いておくと、第六楽章が始まってまもなく、まだ静かな弦楽合奏が続いている部分で、大植さんが左手をかざして座る合図を出し、それにしたがって合唱団が座りました。普通は、もうしばらくしてホルンが加わって音量が盛り上がったところで座らせるタイミングのことが多く、7年前もそうでした。今回はそれよりもかなり早い意外なタイミングでしたが、タイミングといい大植さんの指示の身振りといい、音楽の流れに非常に良くあっていて、素敵な合唱団着席となっていました。大植さんのセンスの良さを感じました。
長くなりすぎたので、この続きはすぐ次の記事に書きます。